大判例

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高知地方裁判所 昭和49年(ワ)10号 判決

原告

松本勇

外一一名

右原告ら訴訟代理人弁護士

佐藤義弥

駿河哲男

竹沢哲夫

藤原周

藤原充子

被告

右代表者法務大臣

福田一

右被告指定代理人

麻田正勝

外一一名

主文

一  被告は、

1  原告松本勇、同田辺重実、

同岩崎松吉、同下元一作、同安井計佐治、同岡本吉五郎、同加納勲、同三笠宙蔵に対し各一、一〇〇万円及びうち一、〇〇〇万円に対する昭和四六年一二月一一日から完済に至るまで年五分の割合による金員

2  原告山中鹿之助、同下村博、同浜崎恒見に対し各七七〇万円及びうち七〇〇万円に対する昭和四六年一二月一一日から完済に至るまで年五分の割合による金員

3  原告大崎憲太郎に対し五五〇万円及びうち五〇〇万円に対する昭和四六年一二月一一日から完済に至るまで年五分の割合による金員をそれぞれ支払え。

二  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は被告の負担とする。

四  この判決は原告らの勝訴部分にかぎり仮に執行することができる。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一、請求の趣旨

1  被告は原告らに対し、それぞれ二、七五〇万円及びうち二、五〇〇万円に対する昭和四六年一二月一一日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行宣言

二、請求の趣旨に対する答弁

1  原告らの請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

3  仮に被告が敗訴し仮執行宣言を付される場合には担保を条件とする仮執行免脱の宣言。

第二(原告ら)

一、請求原因

1  当事者

(一) 被告国は、全国に国有林を所有し、林野庁、営林局、営林署という組織体系のもとに、労働者を雇用して造林、伐採等の林業経営並びに事業を営んでいる。

(二)(1) 原告らはいずれも高知営林局内の関係営林署に別紙原告らの経歴目録の関係欄記載のとおり、長期間勤務した後、退職したものであるが、その間いずれも常用作業員としてチエンソー(但し、原告大崎はブツシユクリーナー)を同目録関係欄記載の期間操作し、右操作による振動障害のため身体の損傷を受け、原告松本、同田辺、同岩崎、同山中、同下村、同浜崎、同大崎は退職前に、またその余の原告らは退職後に「白ろう病」として人事院規則一六―〇、第一〇条に該当する職業病の認定を受けたものである。

(2) 全林野労働組合(以下「全林野」という)は、国有林で働く労働者によつて組織され、労働条件の維持、改善につとめている。

2  「白ろう病」発生に至る経過

(一) 振動機械の導入

(1) 国有林においては、従来伐木、造林、造材作業について殆んど手工具すなわち伐倒、枝打払い、玉切り等の作業については鋸、斧、鉈、鎌、地ごしらえ、植付等の作業については鎌、鉈、鍬が使用されていた。

(2) ところが林野庁は国有林労働の機械化促進方針を決定した。すなわち昭和二八年に「国有林野事業機械化促進要綱」をきめ、国有林野事業の機械化方針を打ち出すとともに、昭和三二年一月に「国有林経営合理化大綱」(案)をまとめ、同年三月には「国有林生産力増強計画」として決定し、合理化としての機械力の導入を積極的に図つてきた。

(3) チエンソー(自動鋸)は、昭和二九年北海道における風倒木処理のため導入され、昭和三三年からは右合理化計画に従い急速に導入され、昭和三五年にはほぼ全面的に使用されるようになつた。

また、ブツシユクリーナー(刈払機)も昭和三六年から導入され、昭和四三年には全国で一万三、〇〇〇台弱になつた。

チエンソー、ブツシユクリーナーの導入状況は、次のとおりである(更にオーガー(自動穴掘機)をも導入したものである)。

機種

チエンソー(台)

ブツシユ

クリーナー(台)

年度

昭和29年

106

0

〃30年

301

0

〃31年

566

0

〃32年

847

0

〃33年

1,358

0

〃34年

1,901

0

〃35年

2,951

0

〃36年

4,194

2,611

〃37年

5,111

6,589

〃38年

4,820

9,231

〃39年

4,998

11,248

〃40年

4,988

12,535

〃41年

5,080

12,990

〃42年

4,969

12,699

〃43年

5,075

12,194

〃44年

5,352

12,960

〃45年

5,914

12,336

〃46年

5,980

10,402

〃47年

5,990

9,083

〃48年

6,120

8,294

〃49年

6,151

7,765

(4) 右のように従来の手鋸、手鎌による作業は急速に機械化されて、昭和三八、九年には全面的な機械作業となり、これについて林野庁当局は安全のテスト及びその措置を度外視し、いわゆる合理化の名の下に専ら作業の功程を高め、コストを低下させるために狂奔し、チエンソー導入初期において一部の地方では一台に二人の伐木手を配置し、交替で使用する方式をとつたところもあつたが、これを全林野の強い反対にもかかわらず、全面的機械化作業の推進に伴い、やがてその殆んどが一人制にきりかえられていつた。この林野庁当局の狂奔が「白ろう病」を生んだものである。

(5) 高知営林局は、昭和三〇年からチエンソーの本格的導入を図つたが、全林野四国地方本部(地方本部を以下「地本」という)は、当局に対し、チエンソーの導入は労働条件の変更に当り、組合との事前の協議を要することを理由に、同年一〇月から昭和三四年一月一四日「チエンソー使用に伴う職員の労働条件に関する覚書」の労働協約締結に至るまで、チエンソーの使用を中止させていた。

また、ブツシユクリーナーは昭和三六年から導入された。

(二) 「白ろう病」の発生

昭和三四年末長野営林局坂下営林署管内の国有林労働者のあいだに、チエンソー使用による手・指の白ろう現象が現われ顕在化した。

更に昭和三五年二月農林省林業試験経営部が発表した「チエンソー作業のアンケート調査について」でも明らかなように、熊本・大阪・名古屋・東京・前橋・秋田・青森・函館・札幌・旭川・帯広・北見の一二の営林局から総て、しびれ・関節痛・筋肉痛の訴え者があり、蒼白現象も、大阪・名古屋・青森・函館・北見の営林局で発現していた。

3  振動障害をめぐる労使交渉等の経過

(一) 職業病として認定されるまでの経過

(1) 全林野長野地本は、昭和三六年長野営林局に対し、機械化によつて、眼・耳・心臓の病気や神経痛・関節痛等が多発するので調査するよう要求した。

当局は、調査の結果、一八名の罹病者が判明したが、その症状は作業自身の影響とは考えられないと回答した。以後全国的に訴えが聞かれるようになり、林野庁当局は昭和三八年一一月アンケート調査を実施した結果、チエンソー使用者で蒼白現象を訴えた者が5.7パーセント、ブツシユクリーナー使用者で蒼白現象を訴えた者が一パーセントにも達していた。

しかし、当局は他産業におけるさく岩機使用者の場合に訴え率が五〇パーセント以上の例があるので、これに比べ低率であると評価し、蒼白現象を含む振動障害の重大性を認識しようとせず、全国で多数の罹患者が発生しているのに、その予防のための方法や治療の方法にも努力しなかつた。

(2) 全林野は、昭和四〇年三月林野庁当局に文書をもつて次のことを要求した。

イ 振動障害を職業病と認定すること

ロ 公務災害として治療させること

ハ 要治療者は、職種替を行い、労働条件の低下をさせないこと

ニ 使用時間の規制

林野当局は、右全林野の要求に応ぜず、全林野は重ねて、昭和四〇年一一月林野庁当局に文書をもつて次の要求をした。

イ 機械の使用を一日二時間三〇分とし、連続三〇分を限度とする

ロ 二人一組方式の採用

ハ 雇用の減少をしない

ニ 安全性が確保できないときは、直ちに機械の使用を中止する

この要求に対しても林野庁当局は消極的態度であり、振動障害の予防、治療に積極的に取り組む姿勢を示さなかつた。

(3) 全林野四国地本においても、同組合員の中でチエンソーを使用する作業員に、昭和三七年頃から蒼白現象を訴える者が現われ出した。

しかし、高知営林局も振動障害の予防・治療に対し、林野庁当局と同様の態度をとり、積極的対策を講じようとしなかつた。

全林野四国地本は、高知営林局らに対し、振動障害の職業病認定・治療・予防の諸要求を提出し、昭和四〇年三月から団体交渉に入つた。

交渉の中心は次の事項である。

イ 振動障害の職業病指定と治療対策

ロ 機械の改善と使用時間の短縮等の予防対策

ハ 安心してできる治療対策(補償)

これに対して、当局はチエンソー使用とレイノー現象(「蒼白現象」)との相当因果関係が、いまだ明確でないという理由で、何らの対策を講じようとしなかつた。

(4) 全林野は、前述のとおり林野庁に振動障害の職業病指定の要求をする一方、人事院・労働省に対し振動障害の職業病指定と振動障害の諸対策を要求した。

これに対して労働省は昭和四〇年五月二八日労働基準法施行規則第三五条第一一号の解釈に、チエンソー等林業に使用する振動機械を含めることとし、振動障害が業務上の疾病として取り扱われることとなつた。

一方、人事院は昭和四一年七月人事院規則一六―〇第一〇条別表一の番号四四号を改正し、振動障害を含ませることとし、職業病と指定した。

しかし人事院は振動障害を職業病としながら、実施機関である林野庁の権限を大幅に制限し、

イ 入院

ロ チエンソー以外の振動機械によるもの

ハ チエンソー使用二年未満のとき

ニ 休業補償は、医療機関で診療を受けるために必要な時間に限定

ホ 上肢以外の部位の認定

ヘ 治療方法の制限

等について、林野庁は人事院の事前承認を要することとし、そのため罹患者の救済が著しく遅滞した。

これらの条件は、その後漸次撤回され、林野庁の権限も営林局へ更には営林署等に委任されるに至つたが、その間早期発見、早期治療を要する振動障害罹患者に時間的な負担をかけた。

(5) 結論

如上の経過が示すように、「白ろう病」は、林野庁の作業員の身体の安全を度外視したいわゆる合理化の所産である。このように林野庁当局にその責任の所在があるが故に、林野庁当局は、自ら容易に「白ろう病」を職業病として認めることを拒否していたものである。

(二) 職業病認定以後の経過

(1) 振動障害が職業病と認定された後の全林野の闘いは、治療対策・予防対策・保障制度の確立に向けられ、昭和四四年四月四日林野庁長官に対し「白ろう病の予防及び治療対策ならびに安全保障に関する要求書」を提出した。その大要は次のとおりである。

イ 予防対策について

(a) 使用時間一日二時間以内とし、一か月四〇時間を越えないこと

(b) 毎月一回の健康診断

(c) 罹患者又は罹病の疑いのある者には機械の使用を中止し、治療に専念させる

ロ 治療対策について

(a) すみやかに認定し、完全治癒まで治療に専念させる

(b) 入院治療の必要ある者はすみやかに入院させる

ハ 補償制度について

(a) 休業に当り罹病前の実質賃金を補償し、賃金の改訂あるときはその職種の改訂額を加算する

(b) 職種替で賃金が低下するときは、従前の職種の賃金を補償する

これに対して林野庁長官は、同月一〇日回答したが、その内容は、

時間規制はどの程度にすべきか医学的に明らかでないので検討していく、毎月の健康診断は考えない、振動障害は休業療養を要しないので従来どおりの治療を実施し、休業補償は診療を受けるために必要な時間に限り補償し、入院は人事院と協議して必要性を認められたとき必要な療養補償をする

というものであつた。

この回答は、林野庁の病像に対する認識の欠除を如実に示している。

林野庁当局は、チエンソー等の振動機械の導入により振動障害が発生し、昭和四一年七月には職業病と指定され、昭和四三年末までに国有林労働者で四八八名の認定患者があつたものであり、いまだ振動障害の治療方法・予防方法が確立されていなかつたのであるから、完全な治療方法・予防方法が確立されるに至るまで振動機械の使用を中止するか、絶対に罹患者の発生しない時間まで使用制限を自発的になすべきであつた。

しかるに林野庁当局は生産第一主義のもとに、チエンソー等の振動機械を使用させ、昭和四四年中に国有林労働者で五五八名の振動障害の認定患者を出した。

(2) 林野庁当局のかかる態度に対して、全林野は自分達の生命は、自分達で守らなければならないと決意し、全組織をあげて振動障害絶滅の闘いを開始し、精力的に団体交渉、外部団体との共闘、関係官庁への要請等を行い、更に、昭和四四年一二月五日全山ストライキをもつて、林野庁当局の振動障害に対する態度への抗議と、その要求を貫徹することを決定したが、同月六日団体交渉の結果「振動障害に関する協定」を締結させるに至つた。

この協定の主な内容は、次のとおりである。

イ 振動機械の使用を一日二時間以内とし、週五日以内、及び月四〇時間を限度とし、連続操作日数は三日をこえないものとする。

ロ 一連続操作時間は、チエンソー一〇分、刈払機三〇分を基準とする。

ハ 職種替による賃金の低下を補償する。

この協定の内容は、全林野の目標である振動障害の絶滅にはとうてい達せず、当面の拡大の一時的防止でしかなかつたことは、昭和四五年以降も毎年国有林労働者に罹患者が発生し、その総数が一九〇一名(昭和五一年三月末現在)に達していることからも明らかである。

(3) 全林野四国地本でも振動障害絶滅のための闘いの一環として振動障害が職業病として指定された後である昭和四一年一一月二一日から二二日にかけて当局と団体交渉したが、当局は白ろう現象は因果関係が明確になつておらず、治療方法も研究中である等と答弁し、責任をとろうとしなかつた。

しかし、前記全林野と林野庁との「振動障害に関する協定」を受け、高知営林局と団体交渉をし、昭和四五年一月から右協定を実施させた。

但し、この協定締結後も新たにチエンソーの使用を始めた労働者の一二パーセントが罹患するに至つた。

(4) 全林野は、罹患者が治療に専念するためには一〇〇パーセントの補償がなければならないので、その後も補償について精力的に交渉を続けた。

イ 休業補償

振動障害が職業病に指定された後、認定患者は国家公務員災害補償法による休業補償として一〇〇分の六〇と、休業援護金が一〇〇分の一〇支給された。

右休業援護金は、昭和四五年一月一日より一〇〇分の二〇となり、更に昭和四八年六月一日から休業前一年間の基準内賃金(扶養手当を除く)を補償され、ほぼ一〇〇パーセント補償されることとなつた。

ロ 職種替による賃金補償

昭和四五年四月一日より、協定により職種替前の格付賃金若しくは職種替前の一か年間における平均一日当りの実収の一〇〇分の八五を補償し、昭和四七年四月一日からは、右率は一〇〇分の九五と改訂され、昭和四八年六月一日から一〇〇パーセント補償することとなつた。

また職種替した後退職する場合についても格付賃金の特例ができた。

4  被告の責任

(一) 営造物の瑕疵(国家賠償法二条)

林野庁当局が、伐木造材を行う作業員に作業機械として提供するチエンソーあるいはブツシユクリーナーは、その操作に際して振動により、作業員の肉体的精神的安全性を損わない性能のものであることが必要不可欠である。

しかるに林野庁が作業機械として導入したチエンソー、ブツシユクリーナー等は、その使用に際しての振動が作業員の肉体的精神的安全性を損う危険性を有し、安全性に欠けているものであるから、本来これを作業員に対して作業機械として提供し、操作させてはならないものである。ところが林野庁は右作業機械が作業員に肉体的精神的損傷を与えることを認識しながら作業員に右作業機械を提供、操作させ原告らをはじめ多数の作業員に「白ろう病」の症状を生じさせた。

仮に、右作業機械を提供、操作させるとしても作業時間規制等作業員の安全をおかしあるいは身体を損傷することのない万全の規制と予防措置を講じ、そのもとに右作業機械を提供操作させるべきである。これらの措置をせず、右作業機械の導入以来今日に到るもなお万全の安全措置を講じないまま、右作業機械を提供操作させ、よつて原告らに対して「白ろう病」の症状を生じさせたものである。

右はチエンソー、ブツシユクリーナーの設置又は管理に瑕疵があるものというべく、原告らの「白ろう病」の身体損傷はこれに起因するものである。

(二) 安全義務違反(債務不履行)

(1) 使用者がその事業遂行のため、被用者に対し、機械を提供してこれを操作させ、その労務の提供を受けるものである場合、その機械はこれを操作することにより、操作する者の身心に損傷を与える危険のない性能あることを要するのはもちろんのこと、ただそれのみにとどまらず、当該機械を操作させるにつき、これを操作する者の生命、身体、健康等を危険から保護するよう配慮すべき義務(安全配慮義務)を負つているものであり、このことは使用者と被用者との間の雇傭契約(あるいは労働契約)の内容として、又は当該契約上の付随義務として使用者において負担すべきものであることは当然である。

(2) 本件において、林野庁がチエンソー、ブツシユクリーナー等の振動機械を、その事業遂行のため作業員に対し、作業機械として提供するものである以上、その作業機械はこれを操作することによつて操作する作業員の肉体的精神的安全をおかしあるいは身体に損傷を与える危険性のあるものであつてはならない。

仮にこのような作業機械を操作させるとしても、作業員の肉体的精神的安全をおかしあるいは身体を損傷させることのないよう万全の規制と予防措置を講じ、その措置のもとに操作を行わせるべきものである。

ところが林野庁は前記のように右義務の履行を怠つた。そのため、原告らは「白ろう病」に罹患したものであり被告には責任がある。

(三) 使用者責任(国家賠償法一条又は民法七一五条)

チエンソー又はブツシユクリーナーの作業機械を導入した時あるいはそれ以降の歴代の林野庁長官、高知営林局長及び原告らに対し右作業機械を提供操作させてきた関係営林署長らは、被告国の被用者として、右作業機械を原告らに操作させれば振動による身体損傷を生ずる危険性があることを明確に予見しながら、原告らに身体損傷を生じてもやむなしとして提供し、原告らに操作させ、よつて原告らを「白ろう病」に罹患せしめたものである。

従つて、被告国は、国家賠償法一条又は民法七一五条により、原告らに対し「白ろう病」の身体損傷による損害を賠償しなければならない。

5  損害

(一) 包括一律請求の主張

(1) 原告らは、本訴においてそれぞれの退職時から就労可能な期間中に取得する基準内賃金及び基準外賃金、扶養手当等の喪失、いわゆる逸失利益と、その身体損傷による肉体的精神的苦痛と後遺症状(生存原告らは完全治癒の見込みなく、現在なお治療継継中であるため症状固定に至つていないが、強度の後遺障害が残ることは確実である)に対する慰藉料等一切を包括して全額請求する。

すなわち原告らは長年にわたり厳しい作業現場において出来高払いの低賃金のもとで当局の機械化合理化推進計画により防振装置もない不完全な振動機械を提供使用させられ、振動障害発現後も、充分な治療を受け得ず、使用継続させられた。

その結果、頑健な肉体を損傷せしめられ、再び元の健康体に戻ることは不可能な症状にある。原告らの健康被害、精神的肉体的苦痛、経済的破綻、夫婦生活を含めた家庭の破壊等、原告らが受けた総体としての被害が、本訴で請求している損害である。

(2) 前記原告らの受けた総体としての被害は、本件訴訟の意義、被告の加害行為、侵害態様とも合わせ考えると、個々の原告に差はない。

(3) 従つて包括一律請求をする。

なお、本件訴訟の損害賠償額算定については、原告らの罹患した振動障害の特徴(中枢神経にまで及ぶ全身的疾病)、被告国の侵害態様の犯罪的特徴、不誠意な対応の歴史的事実等を斟酌して判断すべきである。

(二) 「白ろう病」について

「白ろう病」の典型的な症状は、寒くなり体が冷えてくると指が先の方から白くなり血の気がなくなつてくる。あたかも死人の手あるいは白いろうそくのようになつてくるが、温めるとやがて回復して後には何ら障害を残さないように見える。

しかし「白ろう病」は白くなることだけがあるいは白くなつた時だけが病気なのではない。「白ろう病」には、初期の段階、かなりはつきりする段階、白くなる段階、殆んどなおらない段階の四段階がある。指が白くなるのは三段階位でそれ以前にすでに各種症状が体内に起つている。すなわち体内の変化として、まず手に流れている血液量が非常に少くなり、動脈は細くなつて、血液が充分流れず、手の各細胞の栄養状態が悪化する。手の皮が厚くなり、ゴワゴワしてくるし、伸びがなくなり、皮膚が割れてくる。爪が厚くなつて堅くなつたり凸凹ができ割れたりする。

更に症状が進むと筋肉がやせてくる。すると手の甲の筋がはつきり見えてきたり、筋ばつてきたり、指が細くなつて関節だけが節くれ立つたようにみえてきたり、たなごころの肉付がやせてくる。手の筋肉がやせることによつて、力が弱くなり、また手だけでなく腕の筋肉もやせてくるから力が入らなくなる。また神経も弱つてくる。従つて、物にさわつた時の感じや、痛みの感覚、熱い冷たいの感覚が鈍つてくるので手を使用する仕事がやりづらくなる。例えば時計のネジ巻き、ボタンがけがしにくくなるし、もつと症状が進むと、ほうきを握つて庭はきをしていても、手が冷えてくると感覚を失つて握つているつもりのほうきを落してしまう。

更に病気が進むと、手の指が使えなくなつてきて、物をつかんでひつぱることもできなくなる。また関節に特に肘関節の部分に障害がでてくる。肘の関節部分が伸びなくなり、伸ばすとゴキゴキする。肩にも障害が起ることがあるし、首の骨の部分が痛んでくる。これはチエンソーという重量物を前かがみになるような悪い姿勢で取り扱うことに関連する。

更に、手に発生する症状の原因は脳にあり、脳は体全体を調節するものであるから、脳の変調によつて体全体がおかしくなる。従つて「白ろう病」とは、手指だけの病気ではなく、脳を含めた全身の病気であるといわなければならない。

また、チエンソーの振動と騒音のストレスをうけると、胃腸障害はひどくなり、栄養の吸収が悪くなるから当然体の働きが弱つてくる。

更に、脳の変調によつて、ホルモンの各関係が乱れてくるので、性的能力が弱まり、性欲も減退する。

以上の如く、「白ろう病」とは、指だけの病気ではなくあるいは白くなつた時だけが病気ではない。人間の体全体の機能を麻痺させてしまう恐ろしい病気であるが、この「白ろう病」に罹患すると、適切な治療方法、予防対策は現在のところないといわれている。

(三) 原告らの症状原告らは、いずれも右「白ろう病」のために作業にたえられなくなつて所属営林署を退職せざるをえなかつたもので、その発症時期、自覚症状、現在までの経過及び肉体的精神的障害等は、別紙原告らの症状表記載のとおりである。

このように、原告らは、身体の損傷後長期かつ現在に到るも、「白ろう病」の症状によつて心身共に苦悩しており、将来の健康及び生活の不安は計り知れない。

(四) むすび

原告らは、前記被告の不法行為又は債務不履行によつて被つた損害として一律に各二、五〇〇万円と、弁護士費用として右各金員の一割である各二五〇万円を被告に対して請求する。

6  結論

よつて、原告らは各自被告に対して二、七五〇万円と右各金員のうち二、五〇〇万円に対して被告の不法行為又は債務不履行による損害発生日より後である昭和四六年一二月一一日より完済に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

二、請求原因を理由あらしめる事実、法律上の主張及び被告の主張に対する反論

別紙昭和五二年三月一五日付原告準備書面記載のとおり。

第三(被告)

一、請求原因に対する認否

1(一)  請求原因1(一)は認める。

(二)  同1(二)(1)について

原告らの経歴目録に記載されている事実については次の誤り以外は認める。

入署時期の欄

原告番号1.昭和一二年六月二〇日は、大正一三年六月二〇日である。

同   6.昭和一四年一月二一日は、昭和二七年四月一日である。

同   9.昭和二七年六月一日は、昭和二七年五年二一日である。

なお、原告らがチエンソー、ブツシユクリーナーを使用して「白ろう病」に罹患した点については、公務災害認定の範囲内で認める。

(三)  同1(二)(2)については否認する。

2  同2について

(一) (一)(1)については認める。同(2)については、林野庁が国有林事業の機械化促進の方針を決定したこと、昭和三二年一月に「国有林経営合理化大綱」(案)をまとめ、同年三月「国有林生産力増強計画」(案)を決定したことは認めるが、その余は否認する。

(3)については林野庁が昭和二八年チエンソーを導入したことまたその導入の経緯が原告らの掲げる別表のとおりであること(但し、昭和四四年まで)は認める。

(4)については昭和三八、九年にほぼ全面的な機械作業になつたことは認めるがその余は否認する。

(5)についてはチエンソーが昭和三四年度から、ブツシユクリーナーが昭和三六年度から、それぞれ実用的導入を開始したことは認める。

(二) (二)については否認する(蒼白現象の訴えがあつたのは昭和三五年である)。

3  同3について

(一) (一)について

全林野長野地本が、昭和三六年長野営林局に対し、機械化によつて眼、耳、心臓の病気や神経痛、関節痛等の影響があるのでこれを調査し、措置することを求めたこと、林野庁が昭和三八年一一月アンケート調査を実施した結果、チエンソー使用者で蒼白現象を訴えた者が、5.7パーセント、ブツシユクリーナー使用者で蒼白現象を訴えた者が一パーセントいたこと、昭和四一年に「白ろう病」を職業病として取り扱うことになつたことは認める。

(二) (二)について

昭和四四年一二月六日、林野庁と全林野との間で原告ら主張のような内容の「振動障害に関する協定」が締結されたことは認める。

4  同4については争う。

5  同5については原告らの退職の事実及び「白ろう病」の典型的症状については認めるがその余は争う。

原告らは「白ろう病」のために退職を余儀なくされたものではない。

すなわち、原告下元、同下村、同浜崎、同大崎は、各自転職を予定して退職したものであり、退職後原告下元は飲食店更に造園業を経営し、原告下村は運転手更に鉄工所工員となり、原告浜崎は鮮魚店、原告大崎は雑貨商店を営んでいるものである。また原告安井は、結核性疾病のため昭和四〇年一〇月一日以降退職時まで二年間休職し、国有林野事業作業員就業規則一七条により昭和四二年九月三〇日退職したものである。

次に原告松本、同田辺、同岩崎、同山中、同岡本、同加納、同三笠はそれぞれ高齢のため、勧奨又は普通退職したものである。

二、被告の主張

1  チエンソー、ブツシユクリーナー導入に至るまでの経緯

(一) チエンソーの開発及び改良並びにその導入の過程

大正七年アメリカにおいてツーマン用ガソリンエンジン鋸が製作された。その後、自動鋸の開発、改良が進められ、昭和二八年我国国有林において初めてチエンソー(ギヤドライブ方式)を試用した。昭和三一年アメリカにおいてダイレクトドライブ方式のチエンソーが開発され、これにより、チエンソーの機能は飛躍的に向上した。

昭和三二年右方式のチエンソーが日本に導入され、これを契機に国有林への導入が本格化した。

昭和三四年には、手鋸からチエンソーへの切換がすすみ機械化率は四〇パーセント程度となり、昭和三七年には国有林においてはほぼ全面的にチエンソー作業となつた。

(二) ブツシユクリーナー導入の過程

昭和三二年頃、我国において実用導入され、民有林で使用された。昭和三五年国有林において小型二サイクルガソリンエンジンを背負式にした共立式パワーサイセを使用し始めた。昭和三六年本格的導入が進められた。しかし、チエンソーに比し年間の稼働が短期間であること及び地形や植生によつて使用効果が著しく左右されること等の理由からチエンソー程には普及するに至つていない。

(三) 国有林野事業における作業機械化の要請

「国土の保全その他国民の福祉の増進を図ることを旨とし森林資源の培養、森林生産力の向上及び経営の合理化に努めて経営すること」を目的とする国有林野事業は、公益性とともに事業の経営に関してはその性格上企業性をも併有しているものであり、そのため事業会計についても国有林野事業特別会計法に基づく特別会計制度が採られている。

しかして、戦後急速な復興を遂げた我国の経済を高度にしてしかも安定的に発展させるためには我国の貴重な資源の一つである森林の潜在的生産力を最高度に活用するための施策を推進する必要のあることは言をまたない。そこで林野庁は昭和三三年度に国有林の経営計画を変更するとともに、国有林野事業特別会計中重要な位置を占める製品生産部門に関し、これの安定的かつ能率的な規模と仕組について検討を加え、国内外の社会的経済的諸情勢の変化と技術の進歩に即応して林地の保護、労働強度の緩和、作業安全の確保、製品の保持並びに能率の向上等の改善を図ることによつて、事業経営の目的の達成に資することとした。なかんずく、林業機械を導入して人力、畜力の機械化をはかつて労働強度の緩和、作業安全の確保を実現することは急務の要請であつた。すなわち我国の昭和三〇年代以降における第二次、第三次産業の急伸による労働力の不足は第一次産業に深刻な影響を及ぼし、ことに作業それ自体に内在する危険性を克服しながらの重労働が要求せられるという林野事業がその例外たりえなかつたことは当然であつた。

そこで林野庁においては、人力、畜力の機械化の具体策として、伐木、造材作業のチエンソー化、木寄作業及び運材作業の集材機による機械化、積込作業の機械化を実施することとしたのである。

(四) 高知営林局におけるチエンソー等の導入

高知営林局においては林野庁の右方針に従い、作業員の意思と適性とを考慮して適格者を選択し、チエンソーについては昭和三四年度から、またブツシユクリーナーについては昭和三六年度から、それぞれ実用的導入を開始したものである。

2  振動障害の発見とその後の状況

(一) 振動障害発見の時期

国有林野事業においてチエンソーの使用を理由とする蒼白現象等の訴えが出たのは昭和三五年長野営林局管内の上松及び坂下の両営林署の定期作業員、伐木造材手三名からであるが、高知営林局管内については、昭和三八年一一月のアンケート調査の結果二七名が異常を訴えていることが昭和三九年三月に明らかになつた。

そこで林野庁の定めた臨時健康診断実施要領に基づき、昭和四〇年三月に前記二七名を含む異常訴え者八八名につき専門医等に健康診断を依頼したところ、同年七月までの間に二一名について蒼白現象の存することが確認された。

(二) 振動障害発見後とられた対策ないし措置

(1) 作業機械使用者を対象とする基礎調査

林野庁はこの種疾病と公務との因果関係の存否を明らかにしたうえ、必要とあればその対策を樹立するため、昭和三八年一一月現在の時点において、作業機械使用者全員を対象としたアンケート調査を実施し、同調査結果の取まとめと分析を同月労働科学研究所に委嘱した。

昭和三九年三月に提出された同研究所の調査結果は次のとおりであつた。

チエンソー使用者で蒼白現象を訴える者一六八名(チエンソー使用者中の5.7パーセント)、ブツシユクリーナー使用者で蒼白現象を訴えている者五一名(ブツシユクリーナー使用者中の1.0パーセント)

(2) レイノー現象対策研究会の設置

いわゆるレイノー現象については未解決の点が多く存するところから、斯界の権威者の助言をえて具体的な施策を講ずるため、昭和四〇年七月にレイノー現象対策研究会を設置した。

(3) 振動障害対策のための調査研究の実施

林野庁は、機械の振動の分析、その減衰方法(防振)、機械の操作法の改善、振動の人体への影響、振動障害に対する衛生管理等については、昭和四〇年八、九月頃林業試験場又は林業機械化協会へ、医学的基礎研究については昭和四〇年七月から、労働科学研究所、東京大学等へそれぞれ委託し研究した。

(4) 管理医に対するレイノー現象等に項する指導

我国においては、レイノー現象の臨床例も少なくかつ未解明の点も多いところから、昭和三九年一一月以降毎年中央での管理医会議を開催、またこれと併行して地方管理医会議を開催し、指導協議等を行つて現場における指導管理にあたつた。

(5) 衛生管理者等の現場巡視の実施

実効ある現場巡視を実施するため、事業所主任等に資格を取得させた衛生管理者の現場巡視を強化するとともに各事業所にレイノー現象訴え者経過表を備付けて健康管理に努めるべく各営林局長をして昭和四一年六月以降実施させた。

(6) 治療研究の実施

チエンソー等の使用に伴う振動障害についてその病理の究明と治療方法を確立するため、斯界の権威者の助言をえて、血管系、神経系、骨、関節系等広範囲にわたる調査研究を国公立の病院、研究機関に委託実施した。

(7) 目立作業の再研修

チエンソーが国有林野事業に導入されて以来、連年チエンソー取扱要領に基づく研修を実施してきたのであるが、昭和四一年三月目立の良否が振動に影響することが明らかとなつた。

そこで高知営林局においても林野庁の指導により、同年四月チエンソー目立技術研修の講師養成のための特別研修をも五名の者に対し四日間実施したが、これら研修を受けた者はそれぞれの所属する営林署において関係作業員(高知営林局管内で三九二名)に対し二日間にわたる研修を実施し、目立技術の向上を図つた。

(8) 防寒措置

振動障害の発症は身体の寒冷、素肌の露出が大きく影響することから、従来は各営林局においてそれぞれ措置していたものを昭和四四年八月、林野庁は統一的に作業衣等の備付基準を定めて各営林局を指導した。

高知営林局においては、右指導に基づき、次のとおり備付けた。

品名

備付時期

数量

防寒防振手袋

昭和四四年一一月までに完了

七三二双

防寒衣

同 四五年 二月  〃

六一八着

保温水筒(ジヤー)

同 四五年 一月  〃

四三七個

弁当保温用具(ランチジヤー)

同 四六年一一月  〃

四五七個

防寒テント

同 四六年末     〃

一二九張

保温設備(小屋)

同 四六年末     〃

七八舎

(9) 通勤バスの配置

振動障害は朝の単車通勤によつて発症する例が多いことに鑑み、従来事業運営の面からの目的より必要に応じて通勤バスを配置していたが、昭和四四年度から積極的に振動障害発症の予防策対、つまり保温と身体に振動を与えることの可及的防止の目的をもつて通勤バスを配置した。

高知営林局における通勤バスの年度別保有台数は昭和四三年度四台、昭和四四年度一九台、昭和四五年度二八台、昭和四八年度六〇台である。

(10) 体操、マツサージの奨励

林野庁は、振動障害の発症防止対策上、体操やマツサージが必要かつ有効と目されていることから、その普及と徹底を図るため、昭和四一年一二月に指導員となるべき者の養成研修を実施した。

高知営林局では、右により養成研修を経た指導員を講師とし、昭和四二年一月、管内を二つに区分して全営林署に対する伝達講習を実施した。各営林署においては右伝達研修の受講者を林業体操指導員及び推進員と定め、鋭意その普及徹底を図り、現在適切に実行されているものである。

(11) 特殊健康診断の実施

林野庁は、昭和四〇年八月、前記臨時健康診断実施要領を「局所振動機械作業従事職員に対する健康診断の実施要領」に改定して実施した。すなわち春秋二回の一般定期健康診断の時に関係職員に対する精密検査を実施することとし、あるいは随時必要に応じて医師の所見に基づいて精密診断を行う等適確な健康診断を実施している。

(12) 使用時間の規制等

林野庁は昭和四四年一二月六日、全林野並びに日本国有労働組合との間に振動障害対策の基本となる「振動障害に関する協定」を締結し、振動機械の操作時間について左記のとおり協定した。

(イ) 一日の使用時間は一人二時間以内とする。

(ロ) 一週間の使用日数は五日以内とし、連続操作日数は三日を超えないこと。

(ハ) 一か月の使用時間は四〇時間以内とする。

(ニ) 一連続操作時間は、チエンソー一〇分、ブツシユクリーナー三〇分とする。

右協定以外にも関連する協定を多数締結して、これらを適確に実施することにより、振動障害発症の予防と治療に努力を傾注しているものである。

3  被告の責任について

(一) 営造物の設置又は管理の瑕疵(国家賠償法二条)について

(1) チエンソー、ブツシユクリーナーは同条にいう「営造物」に該当しない。

すなわち、同条の趣旨は、従来国又は地方公共団体の非権力的行政作用につき民法七一七条の規定の適用があるか否かの疑義を立法的に解決し、同条の延長線上ないし同条と同様の意味における危険責任を認めたものであり、従つて「営造物」とは「土地の工作物」又はこれに準ずべき物的施設に限られるべく、一般の動産すなわちチエンソー、ブツシユクリーナーまで含むものと解するのは相当でない。

(2) 仮にチエンソー等が国家賠償法二条にいう「営造物」に該当するとしても、同条の「設置又は管理の瑕疵」に該当しない。

すなわち、設置又は管理とは、民法七一七条にいう「設置又は保存」と同義であり、設置又は管理の瑕疵とは営造物の設計や建造又はその後の維持修繕や保管に不完全な点の存すること、換言すれば営造物が通常備えるべき性質あるいは設備を欠くこと、つまり本来の安全性に欠けていることをいう。しかして法文上、「営造物の設置又は管理の瑕疵」とあつて「営造物の瑕疵」ではないから、営造物に通常備うべき性質の欠けている点が「設置」又は「管理」上の瑕疵によるものであることが必要である。

そこで本件についてこれをみるに、原告らはチエンソー等が操作の際振動を伴うことにより作業員の肉体的精神的安全性を損うこと、つまり振動が設置又は管理の瑕疵に該るとするようである。しかし振動そのものは営造物の「設置又は管理」の瑕疵でもなければ「営造物」それ自体の「瑕疵」でもない。けだし、すでに述べた如く、営造物の設置又は管理の瑕疵とは営造物が通常具有すべき性質を有しないことをいうのであるから、原告らの主張によれば、通常備えなければならない性質ないし安全性を有する営造物すなわちチエンソー等とは無振動のそれを指すことになる。しかし、そもそもチエンソーなるものはチエンに装着された数個の刃がエンジンより伝達されたエネルギーにより、対象物たる木材に順次激突する衝撃力によつて木材を切断していくものであるから、その際に振動の発生することがあるのは物理的に不可避的現象である。しかも、これら振動機械の使用と振動障害発症との間に因果関係が認められるとしても、それは長期の連続使用によつて初めて振動障害発症の可能性を生ずるというにすぎないのであつて、単に一回限り、あるいは短時間のみ使用する限りにおいては、振動障害発症の危険性は全くないといつて良い。これをもし、振動の存することをもつてチエンソー等の設計又は管理の瑕疵というに至つては、過度のレントゲン撮影は放射線障害を惹起する危険性を有することを理由に営造物たるレントゲンカメラに設置又は管理の瑕疵があるということに等しい。このことよりみても原告らの右の点に関する主張は理由がない。

(3) 営造物の管理者の管理義務違反をもつて、営造物の設置又は管理の瑕疵ということはできない。

すなわち、「公の営造物」とは、国又は地方公共団体の公の目的に供される土地の工作物又はこれに準じた物的設備のみを指称するものであつて、無体財産権や人的施設を含まず、また「設置又は管理に瑕疵」があるとは設計、建造等に不備、不完全があり、あるいはその後の維持、保管や修繕に不完全な点があるため、営造物自体が通常備えるべき安全性に欠けている状態をいうと解するのが相当である。従つて国家賠償法二条による責任を負うか否かは、かかつて営造物の安全性欠如が営造物に内在する客観的な物的瑕疵、つまり営造物を設置又は管理する行為に起因して生じたものであるか否かによつて決せられるべきものであつて、単に管理者の作為又は不作為義務違反によつて決せられるべきではない。けだし、同法二条による責任発生の根拠を管理者の義務違反に求めることは、本来無過失責任であるはずの同法二条に過失概念を持ちこむことになり、同法一条とのちがいがなくなる。

(二) 安全義務違反について

被告は、雇傭契約上の付随義務として、使用者が被用者に対し労務給付のための場所、設備、器具等を給付すべき場合において、被用者が労務を給付する過程での生命身体を保護すべき義務を負うものであることを否定するものではない。

しかし、右義務違反が成立するためには、使用者の責に帰すべき事由の存することが必要であると解されるところ、被告には何ら帰責事由は存しないから安全義務違反はない。

すなわち、国有林野事業にチエンソー等の作業機械導入の必要性とその経過の概要についてはすでに述べたところであるが、国有林野事業にチエンソーを導入し始めた昭和二八年当時はもちろん、高知営林局へ導入され始めた昭和三四年当時はすでに諸外国においては広く市販されていて、すでに一般に普及していたにもかかわらず、チエンソー等の振動によつていわゆるレイノー現象等の振動障害を発症させる可能性が存すること等全く知られず、そのことは当時の時点においてメーカー側からは勿論、医学界やその作業機械を使用している諸外国の作業員の側からも全く指摘されていなかつたのである。

更に、チエンソー導入当初より二、三年間は性能、作業能率等の検討のため試験的に使用していたものであり、これが生産用具として使用のため本格的導入に踏切つたのは昭和三二、三年頃からであるが、導入した機械の機種はその当時としては、いずれも技術的に最高水準に到達した製品であつて、構造上の不備や材質等の粗悪は全く存しなかつた。またその間、正しい作業基準の確立及び機械操作(維持、修繕を含む)並びに作業方法の訓練指導を実施してきており、チエンソーの導入及びその取扱いについては、何ら注意義務違反はない。

要するに専門家をもつてしてもなお現時点においてさえ、いまだ振動といわゆるレイノー現象等の振動障害の症状との間の因果関係の究明が学理的に完成されているとはいい難い段階にあることに徴するとき、導入当時において、振動機械の使用によつて振動障害が発症することを予見するが如きは通常人の能力をもつてしては全く不能であつたといわざるを得ない。

(三) 使用者責任(国家賠償法一条又は民法七一五条)について

(1) 原告らは、被告に国家賠償法一条の責任があると主張する。しかし同法一条が適用されるためには、当該違法行為をなした国又は地方公共団体の公務員が公権力の行使にあつた場合でなければならないところ、国有林野事業における製品生産事業、なわち営林署長が原告らをしてチエンソー等を使用させて事業を行つた行為は私経済行為以外のなにものでもないから、被告に同法一条の責任があるとの原告らの主張は失当というほかない。

(2) また、原告らは被告に民法七一五条の使用者責任があると主張するが、被告の被用者たる林野庁長官、高知営林局長、営林署長にいずれも故意過失の存しないことはすでに述べてきたところより明らかというべきであるから、その使用者たる被告に同法七一五条の責任があるとする原告らの主張は失当である。

三、被告を理由づける事実、法律上の主張及び原告らの主張に対する反論

別紙昭和五二年三月一五日付被告準備書面(五)記載のとおり。

第四  証拠〈省略〉

理由

(書証の引用について)

当事者双方から提出された書証、その成立の認否及び成立に争いのある書証についてその成立を認めた証拠はいずれも別紙書証目録記載のとおりであるが、以下引用する書証については書証番号のみを掲載することとする。

第一当事者

被告国が、全国に国有林を所有し、林野庁・営林局・営林署という組織体系のもとに労働者を雇用して造林、伐採等の林業経営ならびに事業を営んでいること及び原告らが高知営林局内の関係営林署に別紙原告らの経歴目録の関係欄記載のとおり、長期間勤務したのち退職したものであり、その間いずれもチエンソー(但し原告大崎はブツシユクリーナー)を同目録関係欄記載の期間操作し、原告松本、同田辺、同岩崎、同山中、同下村、同浜崎、同大崎は退職前に、又その余の原告らは辞職後に人事院規則一六―〇、第一〇条に該当する職業病の認定を受けたものであることは当事者間に争いがない(但し、原告松本、同安井、同三笠の各入署時期については争いがあるが、乙一三八及び一三九号証により、原告松本については大正一三年六月二〇日、同安井については昭和二七年四月一日、同三笠については昭和二七年五月二一日にそれぞれ入署したものと認められる)。

証人谷沿嘉瑞の証言によれば、全林野は、国有林で働く労働者により組織され、組合員数は約五万人、林野庁本庁と各営林局(合計一五)に地本を置く組合であることが認められる。

第二「白ろう病」(振動障害)発生に至る経過

一当事者間に争いのない事実

原告らが、別紙原告らの経歴目録の関係欄記載どおりに振動機械を使用し、傷病名レイノー現象(但し、原告田辺は関節炎)として国家公務員災害補償法上の公務上の災害に罹患し、認定を受けたこと、原告ら主張2(一)(1)のように、従来国有林における伐木、造林等の作業には手工具が使用されていること、同(2)のような方針等が決定されたこと同(3)の表(但し昭和四四年度まで)のとおり振動機械が導入されたことついては当事者間に争いがない。

二チエンソー等の振動機械の導入

右当事者間に争いのない事実と〈証拠〉によると、次の事実が認められる。

1(一) 従来国有林における木材生産のうち伐木、造材、造林の作業は手工具によつて行われていた。

すなわち伐倒、枝打払い、玉切りは鋸、斧を主体として鉈あるいは皮剥ぎの用の鎌等の作業用具を使用し、又造林作業のうち地ごしらえは鎌、鉈及び鋸を、下刈りは鎌を、植付は鍬をそれぞれ使用していた。

(二) 右のように国有林野事業においては殆んど人力にたよつていたが、林野庁は林業経営の合理化をはかり生産性を向上させるため、林業の機械化を推進することとなつた。

そのため、従来の鋸と斧による伐倒、枝打ち、玉切りの作業にはチエンソー(自動鋸)、鎌、鉈による地ごらしえ、下刈り作業にはブツシユクリーナー(自動刈払機)の導入がはかられた。

(三) チエンソーは、昭和二八年国有林において始めて試用され、昭和三一年その導入が本格化し、昭和三七年には全面的にチエンソー作業となつた。ブツシユクリーナーは、昭和三五年国有林において使用を開始し、昭和三六年本格的導入がはかられた(なお植穴掘りのため、オーガ=自動穴掘機も導入された)。

右の機械導入の推移は左記の表のとおりである。

機種

チエンソー(台)

ブツシユ

クリーナー(台)

年度

昭和29年

106

0

〃30年

301

0

〃31年

566

0

〃32年

847

0

〃33年

1,358

0

〃34年

1,901

0

〃35年

2.951

0

〃36年

4,194

2,611

〃37年

5,111

6,589

〃38年

4,820

9,231

〃39年

4,998

11,248

〃40年

4,988

12,535

〃41年

5,080

12,990

〃42年

4,969

12,699

〃43年

5,075

12,194

〃44年

5,352

12,960

〃45年

5,914

12,336

〃46年

5,980

10,402

〃47年

5,990

9,083

〃48年

6,120

8,294

〃49年

6,151

7,765

2 高知営林局への導入

原告らの所属する高知営林局では、昭和三〇年チエンソーの導入を開始したが、導入に際して事前に全林野四国地本と労働条件等について協議することなく導入をはかつたため、組合側がその違反を追求した結果、同年一〇月労働条件等の協議が整うまでチエンソーの使用を中止することになつた。

昭和三四年一月一四日、高知営林局と全林野四国地本との間でチエンソー導入について協議が整い、同年からチエンソーが使用されることになつた。

その後高知営林局におけるチエンソー保有台数は昭和三四年度一三五台、同三五年度二一八台、同三六年度二七一台、同三八年度二五四台、同四〇年度三〇四台、同四二年度三八六台、同四四年度四二六台となつた。

又ブツシユクリーナーについても使用されることになつた。

三「白ろう病」(振動障害)の発生

前記当事者間に争いのない事実及び〈証拠〉によると、次の事実が認められる。

1 昭和三五年、長野営林局管内の坂下、上松の両営林署の、又翌年には同管内玉滝営林署のそれぞれ振動機械を使用する作業員から、手指の蒼白、しびれの訴えがあり、「白ろう病」が顕在化した(「白ろう病」とは、手指が蒼白となる現象を捉えて、労働者の間で呼称されだしたものである)。

その後、振動機械(チエンソー、ブツシユクリーナー)使用者の中から手指の蒼白現象、しびれを訴える者が続出してきた。

2 原告らは、別紙原告らの経歴目録の関係欄記載どおりにチエンソーあるいはブツシユクリーナーを使用し、レイノー現象(但し、原告田辺は関節炎)として公務災害認定を受けたものである。

第三「白ろう病」(振動障害)の概況

〈証拠〉ならびに各検証の結果を総合すると以下の事実が認められる(いずれも後記認定に反する部分を除く)。

一「白ろう病」(振動障害)の発生機序

チエンソー、ブツシユクリーナーはガソリンエンジンによりチエンにとりつけた刃又は刈払刃を回転させて材又は雑木を切断する機械であり、その際右機械の使用者は、手で右機械を把持して作業するため、エンジンの振動と刃が材を高速でたち切る時の振動が手に伝わつてくる。

この振動は、機械を把持する手(又は機械を支持する足、場合によつては腰、臀、背)に物理的刺激を加えるとともに、生体を伝播し、躯幹や頭部にまで達する。この物理的刺激が局所を障害し、神経性インパルスとなり、あるいは体液性の変動をひき起し、影響は全身に波及すると考えられている。従つて振動による障害の症状は血管、神経、筋肉、骨、知覚等に起り、局所だけでなく全身に波及し、中枢神経系及び内分泌系にも強い変動を及ぼしている。

又振動の影響は蓄積すると考えられ、主として(振動機械による一連続振動暴露時間、暴露と暴露の間隔の長短、その他の労働環境の影響もあるが)チエンソー、ブツシユクリーナーの使用時間の長い程、振動障害の発生率の高いことが認められる。

二「白ろう病」(振動障害)の定義

当初は、手指の蒼白現象(レイノー現象ともいう)が外見上もはつきり確認できたし、又特徴的であるので現場の作業員の中では「白ろう病」と呼ばれていたが、この症状のみがチエンソー、ブツシユクリーナー使用による障害ということはできず、本件病像の定義として正確ではない。

従つて以後、チエンソー、ブツシユクリーナーによる振動障害又は単に振動障害ということとする。

三チエンソー、ブツシユクリーナーによる振動障害の病像

1 自覚症状

手指、進行すれば手掌、前腕あるいは足趾に及ぶ蒼白発作、しびれ、痛み、冷え、こわばり等を訴える。

又、頭痛、めまい、多汗、胃腸障害、物忘れ、インポテンツ等を訴えることがある。

日常生活における不便、苦痛としては次のものが多い。

(イ) ごく初期―さわつた感じがにぶい、冷えるとにぶくなる、厚着をするようになつた、指がふるえる、腰が痛む、頭が重い

(ロ) 比較的早期―こたつを入れて寝るようになつた、朝起きた時手がこわばつている、耳鳴りがする、テレビ・ラジオの音を大きくして聞く、疲れやすくなつた、頭が痛い

(ハ) 一定程度進行した時期―手で風呂の湯加減が分りにくい、指をはさまれても感じが弱い、カイロを使うようになつた、腕時計のねじがまきにくくなつた、こまかい字がうまく書けない、魚の身を箸でほぐしにくい、こまかい手仕事がしにくくなつた、話し声が聞えにくい、物忘れをするようになつた、めまい、体がふらふらする、音が頭にひびく、ねむりにくい、どうき、息切れがする

2 他覚所見

(一) 血管系の障害

(1) 蒼白現象は、末梢皮膚の血管が極めて強く収縮し、血流が少なくなつたり遮断されて起るものと考えられ、全身の寒冷、振動、重い工具をしつかり把持すること、湿潤な環境が負荷された時、一五ないし三〇分位発症する。

(2) 血流障害が、毛細血管からかなり太い動脈に至るまで及んでいる。

このような障害は、それが繰り返されることによつて器質的にも異常を来たして、血管壁自体に変化を起し、不可逆的な段階へと進行することも考えられる。

患者の末梢動脈の組織標本で、血管筋層の著しい肥高と内膜の高度の増殖により、血管内腔が著明に狭小になつている例が存在する。

(二) 神経系の障害

(1) 振動工具の使用を始めて最も早期に見られる症状とてしは、振動感覚の鈍麻がある。更に進むと痛覚、触覚、温冷覚等の皮膚表面の知覚の鈍麻や、しびれ感が続く状態となる。

又、運動神経障害とみられる筋肉、筋運動の低下も認められる。

(2) 更に、振動障害罹患者には、頭痛、疲労、いらいら、興奮、不眠、あるいはインポテンツを訴える者が多い。

(三) 骨、関節、組織の障害

(1) 皮膚の硬化、亀裂、爪の変形、筋萎縮、拘縮等が、常在する血行障害のためあらわれる。

(2) 関節(肘、頸椎、手関節)の骨の過剰形成、変形、萎縮、硬化が認められる。

3 アンドレア・ガラニナの病型分類

振動障害罹病者の自覚症状、他覚症状の中には、医学上いまだその発生機序が明確になつたとは言い難いものがある。

しかし、振動障害罹病者の臨床例を積み重ねた結果であるアンドレア・ガラニナの病型分類を参考にすることにより(わが国においても、相当数の賛同者を得ている)、振動機械使用により次のような症状が起ることが認められる。

(イ) 血管緊張異常症候群

これは、四肢の自律神経性血管障害(冷えこみ、チアノーゼ、感覚異常、毛細血管の血流障害)を特徴とする。

(ロ) 血管攣縮症候群

これは、手の指が白くなる段階から、ひどくなると血管痙攣の全身化現象と説明される段階まで含まれる。

(ハ) 自律神経性多発神経炎症候群

これは、自律神経の機能障害とともに、多発性のかなり広範囲な感覚の鈍麻や、感覚障害、異常知覚を伴つている。

(ニ) 自律神経性筋膜炎症候群

これは、筋肉その他の運動器組織が変性を起し、筋肉の痛みが強い型である。

(ホ) 神経根炎症候群

これは、神経炎、神経叢炎、上腕神経叢の炎症から神経根炎症候群まで含まれており、脊髄の変形によつて刺激を受ける病型で、どちらかといえば、周期数の低い振動、例えば穿岩機のような工具を使う場合に、この型の症状が強くあらわれる。

(ヘ) 間脳症候群

これは、頭痛、いらいら、疲れやすい、夫婦生活がうまくかない等のように全身的な症状の型である。

(ト) 前庭症候群

いわゆるメニエル症候群のような型(平衡機能の障害をおこす病気で、めまい、耳鳴り、ふらつき等の症状を起す)である。

四病像の進行段階

1 振動障害の進行段階は次のように区分される。

第一期― 指、手のだるさ、痛み、しびれ等が時々起り、知覚異常(鈍麻、過敏)があらわれたり、肩、頸のこりや腕、腰のだるさ等を訴える。

第二期― 上記の訴えが持続、多発し、部位が広がる。指、手足が冷えたり、変色することもある。頭痛、めまい、いらいら、多汗、物忘れ等の自律神経失調様症状もあらわれやすい。

第三期― 上記の症状が進行しレイノー現象がおこる。腕のしびれ、痛みや知覚鈍麻が強まり筋変性がおこつて筋萎縮、拘縮、筋肉低下等による動作の障害がおこる。神経衰弱様症状や性欲低下もおこりやすい。

第四期― レイノー現象の回数や発現部位が増大する。手足におこると同様な血管緊張異常ないし血管れん縮が全身にひろがり、狭心症様症状、メニエル症候群、間脳症候群等をおこすこともみられる。脊髄性疾患様の症状を呈することもある。

但し、各系の障害の進行程度は必ずしも一様でなく、どれかの系の障害がより強く、現われることもある。又、骨、関節、靱帯、腱等の障害が進行することもある。

2 右の段階のうち、第一期、第二期は一般に可逆的な病変であり(但し、骨による障害又は骨による神経の圧迫症状がないことを前提にした場合のことである)、適当な時期に振動、寒冷、あるいははげしい筋力労働から離れ、同時に治療を行えば、自他覚症状は軽減し回復に向う。しかし第三期以上になると(但し、第三期の初期ならば治療によつて改善することは考えられる)、治療効果が少なくなり、作業から遠ざかつても長期間症状が残ることになる。

五振動障害の予防

基本的には振動工具の振動が手に伝わり、更に身体各部へ伝播することが振動障害の原因であり、それに作業環境が加わつて振動障害を増悪させるのであるから、予防対策としては次のことが考えられる。

(一) 振動機械の使用を中止すること。やむを得ず使用する場合でも使用時間を短かくすること。

(二) 振動機械を改良し、振動がなるたけ人体に伝わらないようにすること。

(三) 振動の暴露時間に関しては、一連続暴露時間が長ければ長いほど、又、暴露と暴露の間隔が短かければ短いほど振動の人体に及ぼす影響が大きくなるのであるから、一連続振動作業時間を短縮し、一労働日当りの振動暴露時間を短縮し、同時に振動機械の使用について人体に悪影響を及ぼさないような管理体制を作ること。

(四) 工具の重いことや、工具の形態が作業に適さないため作業姿勢が不良になることは、工具から身体への振動の伝播の効率を高め、影響を大きくするからその点について工具を改良すること。

(五) 振動の有害な作用を増強する因子としては、寒冷刺激、騒音刺激、排気ガス、栄養上の欠陥があるので、右の点を注意すること。

(六) 労働者に対する適切な安全衛生教育と技術教育が充分行われること。特に高令者が振動工具を使用すると症状が早く進行し、他の疾病が合併しやすいので保護が必要である。

(七) 健康診断を実施して、異常者の早期発見につとめること。

六振動障害の治療

振動障害の治療については現在のところ、大要次のような治療が行われている。

1 日常生活(現場あるいは自宅)でできること

(一) 健康に関する問題意識をもつこと

(二) 身体の保温

(三) 神経刺激をさけること

(四) 体操

(五) 禁煙

(六) 振動工具の使用制限と使用禁止

(七) 環境の整備

(八) 薬剤(循環改善剤)の投与

2 理学療法(マツサージ、パラフイン浴、温泉療法等)

3 薬剤治療(交感神経ブロツク、血管拡張剤、鎮静剤等)

4 外科的治療

七要約

以上検討してきたところによれば、チエンソー、ブツシユクリーナー使用による振動障害の病像は、単に手指の蒼白現象に止まるものではなく、振動機械使用者の全身的な疾病として捉えられ、又、その疾病は臨床例を積み重ねることによつて明らかとなつた振動障害の症状例えばめまい、不眠、性欲減退等の自覚症状、その他の他覚症状を含むと解される。

又、その予防対策としては、振動機械をできるだけ使用しないこと、振動機械を改良して、使用者にできるだけ振動が伝わることを防ぎ、振動を減衰させること、作業環境を改善すること、更に振動障害患者を早期に発見し、治療すること等が重要であると考えられる。

第四責任

一振動障害に関する研究

〈証拠〉によると以下の事実が認められる。

1 チエンソー等林業機械以外の振動機械による振動障害の研究

(一) 明治四四年、外国において振動工具使用による作業者の蒼白現象が報告されている。

(二) わが国では昭和一三年鋲打機(エアーハンマー)使用者の皮膚知覚障害及び血管運動障害の例が報告されている。

その後も、鋲打機、さく岩機使用者による身体的障害(蒼白現象も含む)についての研究報告が続いたが、第二次世界大戦前には振動障害は業務上の疾病と認められるには至らなかつた。

(三) 戦後昭和二二年労働基準法により「さく岩機、鋲打機等の使用により身体に著しい振動を与える業務による神経炎その他の疾病」は業務上の疾病として認められることになつた。

その後も伸線工場のグラインダー使用者、鉄工場のニユーマチツクハンマー使用者、エアーハンマー使用者、さく岩機使用者の振動障害について研究がなされてきた。

2 チエンソー等林業機械による振動障害の研究

(一) 昭和三九年一二月から、全林野名古屋地本の要請によつて、名古屋大学の山田助教授がチエンソー等による振動障害の研究を本格的に開始し、その後種々の研究がなされた。

(二) 労働省は、昭和四〇年五月二八日、労働基準法施行規則三五条一一号の「さく岩機、鋲打機等」にチエンソーを含めることにした。

又、人事院も、昭和四一年七月一日、人事院規則を改正し、チエンソー等の身体に局部的振動を与える機械を使用する公務によるレイノー現象又は神経、骨、関節、筋肉、けんしよう、もしくは粘液のうの疾患を公務上の疾病として取り扱うようになつた。

(三) この間、昭和四一年頃、振動障害の原因を、振動機械使用による器質的な障害又は高次中枢の介在した障害とは考えず心因性を重視する心因説なるものが主張された。

これは、昭和四〇年三月頃テレビで「白ろう病」患者が紹介された以後患者が多くなつたこと、振動障害の発症者には心因性の訴えが多いこと、事業所によつて発症頻度に差があり、集団の影響が考えられること等を理由としたものである。

二振動障害に対する全林野の対策

〈証拠〉を総合すると以下の事実が認められる(いずれも後記認定に反する部分を除く)。

なお、全林野長野地本が昭和三六年長野営林局に対し、機械化によつて眼、耳、心臓の病気や神経痛、関節痛の影響があるので、これを調査し、措置することを求めたこと、林野庁が昭和三八年一一月アンケート調査を実施した結果、チエンソー使用者で蒼白現象を訴える者が5.7パーセント、ブツシユクリーナー使用者で蒼白現象を訴えた者が一パーセントいたこと、昭和四四年一二月六日、林野庁と全林野との間で原告ら主張のような内容の「振動障害に関する協定」が締結されたことは当事者間に争いがない。

1 チエンソー等による振動障害の公務災害認定以前

(一) 昭和三五年長野営林局坂下営林署と上松営林署管内のチエンソー使用者の中から手指の蒼白現象を、又む昭和三六年には同局玉滝営林署から手指のしびれを訴える者が出たので、同年全林野長野地本は、長野営林局に対し、機械化によつて眼、耳、心臓の病気や神経痛、関節症が多くなつてきたので調査するよう要求した。

しかし、この要求に対する対策は具体的にたてられず、ようやく昭和三八年一一月頃に至つて、林野庁は右全林野長野地本の要求に応じ、労働科学研究所の協力のもとに全国の営林署で作業機械(チエンソー、ブツシユクリーナー、クレーン等)を使用する労働者約一〇、〇〇〇名を対象にして、作業機械の健康への影響についてアンケート調査を実施した。

その結果は、昭和三九年三月労働科学研究所より提出されたが、蒼白現象の訴えはチエンソー使用者で5.7パーセント(一六八名)ブツシユクリーナー使用者で一パーセント(五一名)であつた。

林野庁は、この報告につき、他産業におけるさく岩機使用者の場合には蒼白現象の訴え率が五〇パーセント以上の例があるので、これに比較すれば、はるかに低率であると捉えていた。

(二) 昭和三九年一二月、全林野は独自に名古屋大学衛生学教室の山田助教授に依頼して、振動機械による障害の調査を開始し、延べ三回の現地調査を行つた。この結果、山田助教授は「チエンソーを使用する伐木造材手三〇名のうち一七名に蒼白現象が発現しており、しびれ等も訴えている。これらの各症状や発生の経過は、すでに明らかにされているさく岩機等の使用による振動障害の症状と類似しており、このような集団的異常はいわゆる白ろう病がチエンソーの振動によるものであることを疑わせるに充分である」と発表した。

(三) ここに至つて、全林野は、昭和四〇年三月三〇日、林野庁に対し

(イ) 白ろう病を職業病として直ちに認定すること

(ロ) 公務災害として治療すること

(ハ) 要治療者は職種換を行い、労働条件を低下させないこと

(ニ) 白ろう病予防のため機械の使用時間を規制すること

を要求した。

これに対して林野庁は、同年四月七日、それぞれの項目につき検討することを約し、その後も全林野との間で右の諸問題につき団体交渉を重ねた。

なお、全林野の右要求提示の直前、同年三月二六日にはNHKテレビが現代の映像で「白ろう病」を放映し、社会的な反響を呼んだ。一方同年四月八日には「白ろう病」が国会においてもとりあげられるようになつた。

(四) 全林野は関係機関である労働省及び人事院に対してもチエンソー等林業機械による振動障害を職業病、公務上の疾病として認定することを要求していたが、前記一振動障害に関する研究の項で述べたように、労働省は同年五月二八日、職業病として取り扱うことになり、又、人事院も昭和四一年七月一日、公務上の疾病と認定することになつた。

2 チエンソー等による振動障害の公務災害認定以後

チエンソー等による振動障害が公務災害として認定されたことにより、罹病者は治療については法規の定める範囲内で治療を受けることができるようになり、又、休業補償については医師の診断により認めた休業及び治療に要した時間の補償として通常賃金の六〇パーセントが支払われることになつた。

しかし個々の労働者に対する公務災害の認定、振動障害の予防、治療についていまだ多くの問題があつた。

(一) 人事院によつて公務災害として認定される以前である昭和四〇年一一月九日、すでに全林野は次のような要求書を林野庁に提出した。

(イ) 機械の使用を一日二時間半、連続使用時間は三〇分限度に規制すること

(ロ) 機械一台を二人が交替制で使用すること(ツーマンソー)

(ハ) 雇用を減少しないこと

(ニ) 安全が確保できないときは、その機械の使用を中止すること

これに対して林野庁は同月二九日、次のような回答を行つた。

(イ) (イ)については林業の作業態様等からして、時間規制をする考えはない。

(ロ) (ロ)については一台一人が適当である

(ハ) (ハ)については配置換職種換等の措置をとる

(ニ) (ニ)については機械使用を中止しない。

その後も右の全林野の要求をめぐり、同年一二月二四日から翌年の七月一七日まで交渉が継続されたが、進展しなかつた。

(二) このような事態に対し、昭和四四年四月四日、全林野は林野庁に対し、次のような要求書を提出した。

(イ) 予防対策について

振動機械の使用は一日二時間以内一か月四〇時間以内とし、ツーマンソーとすること、諸施設の完備、健康診断、臨時検診の実施、罹病者の機械使用中止と療養専念

(ロ) 治療対策について

罹病者の速やかな公務災害認定と治療専念、入院、医師選択の自由、専門医指定の下部交渉

(ハ) 保障制度について

休業者に平均賃金を補償すること、職種転換とその賃金の補償

これに対して林野庁は、同月一〇日次のとおり回答した。

(イ) 予防対策について

操作時間をどの程度にすべきかについては、医学的にも明らかでなく究明する必要があるが、なお検討する。隔月毎のチエンソー使用も考える。ツーマンソーは採用しない。諸施設は改善する。健康診断については、いままで以上には行わないが、訴え者の臨時健康診断は行う。罹病者も従来どおり、業務に従事しながら療養させる。機械使用は続ける。

(ロ) 治療対策について

公務上の災害認定は迅速、公正に行つている。入院治療は人事院と協議の上行うことになつており、林野庁限りでない。医師の選択は自由である。

(ハ) 保障制度について

休業補償については国家公務員災害補償法で定める休業補償及び休業援護金を支給している。治癒後の職種決定については、医師の判断、本人の希望を斟酌して決定する。

職種転換後の差額補償については、国家公務員災害補償法との関連及び賃金制度の建前からできないが、一時金の支給で措置したい。

以上の要求と回答をめぐり、団体交渉がなされた結果同月二六日、次のようなメモ確認(いわゆる四・二六確認)がなされた。

(イ) 振動機械の使用時間及び改良に関するメモ確認

原則として、一人一日二時間に規制し、関連する事項は早急に中央段階で協議する。機械の改良については、軽量のものに切り換えるとともに、更に開発、改良について積極的に努力する。

(ロ) 職業病認定者の職種換に伴う賃金の取り扱いに関するメモ確認

職種換により賃金低下をきたす場合は、一時金を支給する考えであるが、支給額、支給回数については更に検討する。

(ハ) レイノー現象等の入院及び認定等に関するメモ確認

(a) 入院治療については、人事院より基準を示されるので、医師の診断に基づき、すみやかに入院の要否を決定する。

(b) 振動機械使用期間二年未満の取り扱いは、営林局に認定権限を移すとともに、上肢以外の疾病処理を実施機関(林野庁)においてできるよう人事院と協議する。

(c) 休業補償は、医療機関で診療を受けるために必要な時間のみについて補償してきたが、今後は療養のため勤務することができない場合、事例毎に充分検討して補償する。

休業補償及び休業援護金の額については、その改善に努めていきたいが、これは他省庁の所管にかかる法律に規制されているので関係方面とも協議をすすめる。

(d) 総合的な調査研究を行う。

(三) しかし、この四・二六確認の解釈(特にチエンソー操作時間の解釈)をめぐつて、労使間で紛争が生じ、全林野は同年一二月五日、全山ストライキをも辞さない姿勢で団体交渉を重ねた結果、同月六日、林野庁との間で「振動障害に関する協定」が締結された。

その要旨は次のとおりである。

(イ) 振動機械の操作時間は、一人一日二時間以内、月四〇時間を限度とし、連続操作日数は三日を越えないこと。一連続操作時間は、チエンソー一〇分、ブツシユクリーナー三〇分を基準とし、具体的には下部で協議すること。操作時間とは、原則として身体に振動の伝わる時間をいい、始業又は終業時間の点検、一連続の中で行われる枝払い中の移動、簡易な目立、給油のための短時間の作業停止等を含むものとする。従つて作業前後又は作業の区切りの間に行われる目立、給油等の作業に要する時間で独立の作業とみなされるものに要する時間は除くものとする。

(ロ) 治療については、症状に応じ職種換、機械の使用制限等を行い実施する。

(ハ) 職業病療養施設の新設については、当局で研究を行い、その結果により検討する。

(ニ) 新たに機械を使用する者については、必要な知識、技能を習得させるための研修を行う。

(ホ) 職種換した場合の賃金補償は別に協定する。

これによつて、全林野と林野庁との間で、チエンソー、ブツシユクリーナーの使用時間規制についての明確な合意が成立した。

(四) 右の協定の(ホ)項により、「振動障害により職種換される作業員の賃金補償に関する協定」が、同月締結され、職種換については過去一年の収得の八五パーセントが補償されることになり、更に公務災害補償についても、平均賃金の六〇パーセントのほか、二〇パーセントが休業援護金として支給されることになつた。その後、職種換補償は昭和四七年四月に九五パーセントに改訂され、更に昭和四八年六月に一〇〇パーセント補償となつた。

三振動障害に対する林野庁の対策

〈証拠〉を総合すると以下の事実が認められ(いずれも後記認定に反する部分を除く)。

1 チエンソー導入に際して

昭和二八年のチエンソー導入に際しては、主に新しい機械の操作の不手際による事故防止のため、機械の正しい取り扱い方について留意していた。人体に対する影響についてはチエンソーの小型、軽量、高性能化によつて林業労働の作業強度を低減する方向では考慮していたが、振動障害についてはチエンソーによる振動障害の事例がなかつたことから、特にそのための対策を講ずることはなかつた。

2 チエンソー作業のアンケート調査

(一) 昭和三四年頃、農林省の農林試験場作業研究室が、チエンソーの作業方法の基準を作成するため、全国の営林局、営林署の協力を得てアンケート調査を実施した。

この調査の主たる目的は、チエンソーによる作業方法の基準作成にあつたが、その際、調査者はチエンソー使用によつていままでの人力作業とは異なつた疲労症候があらわれてくることを予想し、この観点から疲労感の調査、振動騒音による自覚症状調査をあわせて行つている。これによるとその時でもすでに、チエンソー使用者の中にしびれ、蒼白、関節痛、筋肉痛を訴える者が存在していた。

(二) 昭和三八年一一月頃、全林野の要求により、前記第四、二、1(一)記載のようなチエンソー等の振動機械の人体に対する影響についてアンケート調査を実施した。

3 昭和四〇年以降の対策

昭和四〇年以降、林野庁は振動障害に対する対策として振動障害の研究、予防、治療、振動機械の改療等を行つてきた。

(一) 振動障害の調査、研究について

(1) 昭和三八年一一月実施したアンケート調査を基礎に昭和四〇年三月、手指の蒼白現象を訴える者を対象として、臨時健康診断を実施し、公務上の疾病として認定しうるか否かの検討を始めた。

(2) 昭和四〇年七月六日「レイノー現象等対策研究会」を設置し、主に医療関係について研究を行うことにした(この研究会は、昭和四二年「林業労働障害対策研究会」と改称)。

この研究会の意見により、同年八月「局所振動機械作業従事職員に対する健康診断の実施要領」(特殊健康診断)を制定実施した。

これは一般の健康診断実施の時、加えて振動障害の診断として実施された。

(3) 昭和四〇年八月、昭和四一年二月、三月頃、専門医に委嘱して、振動障害の調査を行つた(この調査対象は主に蒼白現象であつた)。

(4) 更に、振動障害の診断方法、予防、治療等の基礎資料を得るために下記の表のように各種機関に調査研究を依頼した。

年度

調査研究テーマ

委託先

報告

年月

書証番号

四一

林業機械の振動障害対策に関する試験研究

東京大学医学部公衆衛生学教室

四一・五

乙一八号証

四一

四二

レイノー症候群の治療とリハビリーテーシヨンに関する研究

東京大学第一外科他

四三・六

乙一九号証

四一

林業機械の振動の人体への影響ならびに騒音からの聴覚保護に関する研究

労働科学研究所

四二・五

乙二〇号証

四三

レイノー現象等の病理及び治療に関する調査研究

東京大学医学附属病院

四四・二

乙二一号証

四四

レイノー現象等の診断及び治療に関する調査研究

同右

四五・三

乙二二号証

四五

レイノー現象等の診断及び治療に関する調査研究(血管系)

同右

四六・三

乙二三号証の一

同右(神経系)

同右

同右

乙二三号証の二

同右(骨・関節系)

関東労災病院

同右

乙二三号証の三

同右(温泉療法)

福島労災病院

同右

乙二四号証

レイノー現象等の事後措置に関する調査研究

東京労災病院

同右

乙二三号証の四

四六

レイノー現象等の診断及び治療に関する調査研究(血管系)

東京大学医学部附属病院

四七・三

乙二五号証の一

同右(神経系)

同右

同右

乙二五号証の二

振動障害に骨関節系の変化を求めて

関東労災病院

同右

乙二五号証の三

レイノー現象等の事後措置に関する調査研究

東京労災病院

同右

乙二五号証の四

局所振動機械使用者に対する排気ガス障害に関する調査研究

東京大学医学部公衆衛生学教室

四七・二

乙二六号証

四七

レイノー現象に関する調査研究(血管系)

東京大学医学部附属病院

四八・三

乙二七号証の一

同右(神経系)

同右

同右

乙二七号証の二

同右(骨・関節系)

関東労災病院

同右

乙二七号証の三

同右(事後措置)

東京労災病院

同右

乙二七号証の四

同右(排気ガス関係)

東京大学医学部公衆衛生学教室

同右

乙二七号証の五

四八

振動障害に関する調査報告(血管系)

東京大学医学部附属病院

四九・三

乙二八号証の一

同右(神経系)

同右

同右

乙二八号証の二

同右(骨・関節系)

関東労災病院

同右

乙二八号証の三

同右(事後措置)

東京労災病院

同右

乙二八号証の四

同右(温泉療法)

労働衛生サービスセンター

同右

乙二八号証の五

腰痛に関する調査報告

東京大学医学部公衆衛生学教室

同右

乙二八号証の六

(二) 振動機械の改善について

(1) 林野庁は、昭和四〇年四月、林業機械化協会の中に振動問題を検討するための委員会を設置して振動機械の改良について検討を将めた。

(2) 実施しした振動対策

(イ) 防振手袋(ゴム製)を試作させたが、振動の減衰には余り効果がなかつた。

(ロ) チエンソーのハンドル取付部に防振ゴムパツキンを取付けた改良ハンドルを開発し、人体に伝わる振動を減衰させることに成功したので、昭和四一年から実用化した。

(ハ) 改良ハンドルの検討結果をふまえて、チエンソーメーカー(国内)及び輸入代理店に対して、チエンソー本体内に防振装置を取り付けるという改良を依頼した。右の防振機構内蔵型のチエンソーは昭和四四年、実用化した(ちなみに、右防振機構内蔵型のチエンソーが実用化された後にも、振動障害による公務災害認定者は発現している)。

(三) 作業管理について

(1) 昭和四一年頃から、振動障害対策として作業基準の改善を行つてきた。特にチエンソーの目立の良否がチエンソーの振動に大きな影響があるという研究結果から、昭和四一年度「目立の正しい行い方」の再研修を計画、これを実行に移し、又目立機の備付けも各営林局に指示した。

(2) 更に、昭和四四年三月、チエンソーを使用する作業員の寒冷期における身体への寒冷感の防止又は局所振動の軽減のため、休憩施設の整備、保温用具の備付け、体操の励行等を各営林局に指示した。

(四) 衛生管理について

(1) 昭和三九年一一月以降毎年林野庁及び営林局で管理医会議を開催し、振動障害に関する予防、治療について協議を行つて現場における指導管理にあたらせた。

(2) 営林署の衛生管理者(衛生管理者の資格を取得した事業所主任等)の現場巡視を強化するとともに、各事業所にレイノー現象訴え者経過表を備付けて作業員の健康管理につとめるべく、昭和四一年三月及び六月に各営林局長を指導した。

(3) 更に、振動障害の検査機能向上のため、昭和四六年度検診用オージオメーター、皮膚温計、指尖脈波計、自動血圧計を各営林局に設置した。

四高知営林管内における振動障害についての概況

〈証拠〉を総合すると以下の事実が認められる(いずれも後記認定に反する部分を除く)。

1 高知営林局へのチエンソーの導入

(一) 前記認定のように、高知営林局では、昭和三〇年にチエンソーの導入を開始したが、導入に際して事前に労働条件等について全林野四国地本と協議することなく一方的に導入したことに対し、組合側がそのルール違反を追求した結果、同年一〇月労働条件についての協議が整うまでチエンソーの使用を中止することとした。その後高知営林局と全林野四国地本との間で、引続きチエンソー導入に伴う労働条件について労使折衝を重ねたが、その際の主な争点は林業労働の機械化による人員整理についてであつた。

昭和三四年一月一四日、高知営林局と全林野四国地本との間で協議が整い、同年からチエンソーが使用されることとなつた。

その後の高知営林局におけるチエンソー保有台数は前記の認定のとおりである。

又、この導入当時の労使間交渉の中で、労働安全、衛生について話し合われたが、その時の問題点は、チエンソーの騒音による聴力障害対策や防塵対策が主で、チエンソーの振動による障害については協議されなかつた。

(二) 導入当時のチエンソーの作業編成は、労働者がチエンソーの操作に不馴れであつたこと、機械台数も少くできるだけ多くの作業員に技術を習得させる必要があつたことから、二人一組(ツーマンソー)を採用した。

しかし、作業員の技術の習得、組の一人の退職、昭和三八年頃から作業の仕組が山元での伐倒玉切方式から全幹伐倒集材方式に移行したことにより逐次一人一組のワンマンソーへ移行していつた。

(三) 高知営林局は、チエンソー導入に際して、チエンソーの使用に必要な技能、知識及び安全に対する知識付与のため二回の研修を行い、又、新しい機械であるチエンソーの操作の不手際から労働災害が起ることを防止するため、作業点検を行う等して作業の適正化につとめた。

2 振動障害の公務災害指定と認定について

(一) 昭和三八年頃高知営林局管内でも、チエンソー使用者の中から蒼白現象、腕の痛み、しびれを訴える者が発現した。

全林野四国地本では、昭和四〇年三月時点から「白ろう病」の公務災害指定、訴え者の公務災害認定と治療対策、振動機械の改良とその使用時間の短縮、振動障害患者の補償の諸要求を高知営林局に提出し、労使交渉に入つた。

(二) 高知営林局では、昭和四〇年三月から五月にかけて主として蒼白現象訴え者を対象に二度にわたつて臨時健康診断を実施し、冷水浸漬、上腕の緊縛検査により約二〇名の蒼白現象を確認した。高知営林局では、これら蒼白現象が確認された者について、林野庁へ公務災害認定の上申を行つた。なお高知営林局が依頼して行つた同年一〇月から翌年の一月までのレイノー現象等振動障害の調査では、蒼白現象訴え者が一二〇名存在していた。

(三) 当時の林野庁、高知営林局は、振動障害を蒼白現象に限る傾向が強く、公務上の疾病として認定されるためには蒼白現象が確認されなければならなかつたが、蒼白現象は常時起るものではなく、種々の条件が重なることにより一時的に起り消失するものであり、検査時に蒼白現象を確認することは困難であつた。しかもその検査も管理医が少ないこともあいまつて充分な検査が行われない場合もあつた。人事院による公務災害指定以後、蒼白現象の確認は管理医以外の医師でも認定することができることになつたが、管理医以外の医師の診察を受けることができたとしても、その際蒼白現象が発現しなければ、その日の賃金や交通費はすべて労働者の負担となるので労働者としても管理医以外の医師の診察を受けることが事実上困難な状況にあつた。

(四) そこで、全林野四国地本は、蒼白現象の検査方法の改善、専門医による総合的な検査、蒼白現象以外の振動障害の検査(レントゲン検査等)を要求した。

これに対して、高知営林局は、蒼白現象の検査方法として昭和四一年全身冷曝検査を加え、昭和四二年、年二回実施している健康診断(特殊健康診断)において疾病が確認されない者のうち、特に精密検査の受診を希望する者については専門医の診断を受けさせ、更に同年一〇月二六日の林野庁長官通達をもつて従来の蒼白現象の誘発検査に上肢の関節の腫脹及び筋肉又は骨の変形検査としてのレントゲン検査及び神経系の検査を加えた。

(五) 高知営林局では振動機械使用者のうち、昭和四一年に二〇名、昭和四二年に一四名、昭和四三年に二一名、昭和四四年に一一七名が、それぞれ公務上災害の認定を受けた。

3 振動障害の予防について

(一) 全林野四国地本は、昭和四〇年頃からチエンソー使用時間の規則、二人一組制、振動機械の改善、労働環境の整備、作業者の健康管理について高知営林局に対し改善を要求してきた。

(二) これに対して、高知営林局は、使用時間の規制については使用時間と振動障害との因果関係が明確でないとして当初これを拒否し、又、二人一組制についてもチエンソーの導入当初は二人一組制であつたが、これを管理運営事項であり、組合と協議する必要はないとして逐次一人制に切り換えていつたが、機械の改善、作業環境の整備、作業者の健康管理については次のようなことを行つた。

(1) 振動機械の改善については、高知営林局独自に防振ハンドルを開発し、昭和四〇年末頃までに実用化し、又、チエンソーの重量の軽減をはかるため、中・小型機の導入をはかつた。

更に、チエンソーの目立作業等の研修を林野庁の指示に従つて昭和四一年頃行つた。

加えて昭和四四年六月高知営林局において振動機械対策専門部会を設置し、振動機械の改良に努めた。

(2) 労働環境については、高知営林局は、昭和四四年五月次のような指示を各営林署に対して行つた。

(イ) 休憩施設の整備(主として暖房のため)

(ロ) 防護用具の試用(防寒衣、防振防寒用手袋の試用)

(ハ) 温食用具の備付

(ニ) 体操の励行

(ホ) 教育の実施(機械整備作業、作業動作、生活指導)

(ヘ) 通勤バスの配置(これは、蒼白現象が朝の自動二輪車による通勤によつて発症する例が多いことに鑑み行つた対策である)

これらの指示は、各営林署によつて実行された。

(3) 健康管理について高知営林局は昭和四四年一月次のとおり各営林署長に指示た。

(イ) 定期健康診断の充実

(ロ) 衛生管理者による現場巡視の重視

(ハ) 傷病整理カードの作成(振動障害のためでなく、作業者の一般的な健康管理のため)

(ニ) 健康手帳の交付(健康上の異常者の早期発見のため)

又、高知営林局あるいは管内の各営林署の管理医に対し、昭和四〇年以降毎年一回、振動障害について指導を行い、あるいは協議している。

(三) 昭和四八、九年頃から高知営林局においては、人工林の伐採を手鋸で行うようになつた。

4 振動障害の治療について

(一) 振動障害に罹病した者の治療については、昭和四四年までは主としてビタミン剤、血管拡張剤の投与しか行われていなかつた。

又、休業、入院治療についても、昭和四二年当時高知営林局は「レイノー現象が発現している時には作業上あるいは安全上支障があろうが、発現していない時には、専門家による検査の結果によつても正常者との差が認められないとのことであるので、仕事をしながら治療を行つて行くよう考えている」という方針であり、休業、入院治療を否定し、レイノー現象として公務災害の認定を受けた者についても振動機械を使用させていた。

これに対して全林野四国地本は、休業、入院治療、温泉治療等治療の改善を要求していた。

(二) その後薬剤の投与については、副腎皮質ホルモンの投与、交感神経節切断が、昭和四四年六月二〇日以降実施機関である営林局、営林署の判断によることになり、又、入院治療については原則として営林局で決定することになつた。

更に、林野庁は、昭和四八年六月、公務災害認定者にはチエンソーを使用させないことを確認したが、高知営林局でもそれに先だつて右同様の確認を行つた。

5 振動障害罹病者の補償について

この問題についても、全林野四国地本と高知営林局とが独自に交渉を行つてきたが、結局、全林野と林野庁との交渉経過どおり、昭和四八年六月に一〇〇パーセントの職種換補償、及び公務災害補償が実現した。

五結論

以上認定した事実をもとに、原告らの主張する被告の安全配慮義務の不履行について検討する。

1 一般論

林野庁は、その事業逐行のため、作業員に対し、機械を提供しこれを操作させその労務の提供を受けている以上、その機械はこれを操作することにより操作する作業員の身体に障害を与えない性能を有するものであることを要するのみならず、当該機械を操作させるにつき、これを操作する作業員の生命、身体、健康等を危険から保護するよう配慮すべき義務を負つていると解される。

2 林野庁の具体的な債務不履行

(一)  雇用者としての林野庁は、全く新しい機械を導入するのであるから、機械の人体に与える影響を当然事前に調査研究し、右機械の使用あるいは使用方法によつて、作業員に障害がないことを確かめた上で、作業者に対し機械を使用させるべきであつた。

ところが林野庁は右義務を怠り、国有林における昭和三二年のチエンソーの本格的導入(ブツシユクリーナーは昭和三六年)以前にすでにチエンソー、ブツシユクリーナと同様の振動器具である鋲打機、さく岩機等の使用によつて蒼白現象等の振動障害が起ることが、わが国の学者の研究論文等で明らかとなつており、鋲打機、さく岩機等の使用による振動障害は労働基準法により、職業病に指定されていたにもかかわらず、単に振動の強度が異ること、チエンソー、ブツシユクリーナーによる振動障害の実例がないことを理由に、チエンソー、ブツシユクリーナーの導入に際して振動障害について事前に調査、研究をせず、チエンソー、ブツシユクリーナーを導入し、原告らの経歴目録記載どおり、原告らにチエンソー、ブツシユクリーナーを使用させ、振動障害を惹起させたものであるから、安全配慮義務の不履行として被告に責任を負うべきである。

(二)(1) チエンソーの本格的導入以後昭和三四年の農林省農林試験場作業研究室の調査、昭和三五年の長野営林局管内の作業員の訴えにより、チエンソー使用者に蒼白現象等の振動障害の起ることが明確になつた以後、林野庁は早急に雇用者として振動障害について調査研究し、振動障害を予防すべきであつたにもかかわらず、漫然とこれを放置した。

(2)  林野庁は、全林野の要求により、昭和三八年一一月チエンソー等振動機械使用者のアンケート調査を行つたが、その際、チエンソー、ブツシユクリーナー使用者の中に蒼白現象等振動障害を訴える者が存在したにもかかわらず、鋲打機、さく岩機使用者に比較して蒼白現象発現率が低いことを理由に振動障害について誠実に取り組もうとしなかつたが、ようやく昭和四〇年に入つてから、振動障害の本格的検討を開始した。

昭和四〇年五月、労働省がチエンソーによる振動障害を職業病に含めることにし、更に、昭和四一年七月人事院が人事院規則を改正し、チエンソー、ブツシユクリーナーによる振動障害を公務災害と指定した。

ところが、林野庁は、振動障害がレイノー現象だけでなく全身的な疾病であり、右人事院規則によつてもレイノー現象の他、神経、骨、関節、筋肉、けんしよう、もしくは粘液のうが疾病として指定されているにもかかわらず、当初振動障害をレイノー現象に限る傾向があり、しかもその確認を営林局、営林署の管理医に限つていたため、公務災害の認定が遅れたこと、又振動機械使用によりレイノー現象が発現している者にも振動機械を使用させたこと等により振動機械使用者の振動障害を増悪させた。

(3)  更に、林野庁は、振動障害を予防するため、振動障害の調査研究、振動機械の改良(防振ハンドル、防振機構内蔵型のチエンソー、振動機械の軽量化等)、作業員の健康管理、作業管理に取り組んできたが、それでもなおチエンソー、ブツシユクリーナーの使用により、振動障害が発生している以上、振動障害を予防するためには根本的にはチエンソー、ブツシユクリーナー等に振動機械の使用を中止することが必要である。仮りにこれができないとすれば、振動障害を予防するための措置をとらなければならない。ところが、林野庁は振動機械の使用を中止せず、又振動機械の使用を中止しなかつた場合振動障害を予防するため必要な措置と考えられる全林野の振動機械使用時間規制の要求に対して振動機械使用時間と振動障害との因果関係が明確でないことを理由にこれを拒否し、昭和四四年四月二六日に至つてようやく右要求に応じた。

(4)  以上のような林野庁の作業員に対する安全配慮義務の不履行により、原告らは振動障害に罹患したのであるから、その余の原告らの主張(営造物の瑕疵、使用者責任)を判断するまでもなく、被告は責任を負うべきである。

第五損害

一はじめに

1 「包括一律請求」について

原告らは本訴において「包括一律請求」を行つている。その要旨は「原告らは本訴において、本件不法行為等によつて奪われた生命、健康、幸福な生活の回復を求めたいが、罹患者を罹患前の原状に復することは不可能であり、次善の策として金銭賠償を請求しているものである。とすれば原告らに賠償されるべき損害金は治療費、入院費、逸失利益その他の項目別に合算した財産的損害と狭義の慰藉料との合計ではなく、奪われた生命、健康そして幸福な生活の対価でなければならない。しかも奪われた生命、身体の価値は平等であり軽重、多寡はつけがたく、更に原告らは加害者の同一原因にもとづいて被害を被つたものである。従つて包括一律請求をする」というにある。

しかし、金銭賠償である以上損害は何らかの基準をもうけて算定せざるを得ず、結局逸失利益、慰藉料の項目により算定することになる。

ただ、逸失利益等を含めた意味での慰藉料請求はそれが客観性をもつかぎり許されると解する。

又、一律請求については、確かに人の生命、身体に軽重をつけることはできないが、被害の程度(特に振動障害の程度)が異なる以上、これによる被害者の今後の生活の不便、苦しみは異なつてくるものであり、原告ら一律に同額の損害金を認めるということできない。従つて本件においては、逸失利益等を含めた慰藉料について判断する。

2 損害の算定項目

本件においては、振動障害の病状、被告の責任の程度、被告の原告らに対する補償の程度、退職事情、振動障害罹病後の原告らの生活状況、原告らの年齢等が損害の額を決定する際に考慮された。

なお、原告らの症状の中には振動障害と老齢化があいまつて病状を悪化させている例があるが、たとえ老齢化が加わつても、原告らが振動機械を使用しなかつたら振動障害には罹病しなかつたのであるから、右の点については、原告らの損害を否定もしくは減額する要素として考慮しない。

二原告らの損害

1 原告松本

前記全ての認定事実と〈証拠〉を総合すると以下の事実が認められる(いずれも後記認定に反する部分を除く)。

(一) 経歴

(1) 生年月日、明治四四年一二月一日

(2) 大正一三年六月二〇日、大正営林署中津川事業所に保線手として採用され、昭和二九年常用作業員、昭和三四年六月佐川事業所の伐木造材手となり、昭和四四年九月三〇日付をもつて五七歳で退職した。

(二) チエンソー使用実績

昭和三四年六月より昭和四四年六月まで、天然林で二人一組作業で一日平均約三時間操作し造材作業に従事していた。

(三) 振動障害の発症と経過

(1) 発症

昭和三七年一一月頃、手指に蒼白現象が発現し、しだいに右肘以下手指までしびれ、左手指(拇指を除く)のしびれ、右肘以下手指までの疼痛、両手各指(拇指除く)の蒼白現象が起つた。

高知営林が実施した健康診断の際、昭和四〇年三月二二日の冷水誘発検査では左中指の鈍麻が確認され、同年九月二二日の冷水誘発検査では手指にしれび、疼痛のあることが確認され、更に、昭和四三年九月の冷水誘発検査では左手小指に蒼白現象が確認されている。

(2) 公務災害認定

昭和四四年五月三〇日、他覚症状として運動器は、右中指掌環指関節及び第一指関節、右手関節の圧痛、神経系は右前腕以下尺骨側の触痛覚が鈍麻、蒼白現象は右中指と左薬指に発現として診断され、昭和四四年九月八日傷病名レイノー現象、災害発生日五月三〇日として公務災害認定の通知がなされた。

(四) 退職時の症状と退職理由

手指のしびれ、疼痛、両側肩、腕のしびれ、首のつけねの痛み、耳なり、目まい、不眠等により退職を決意し、普通退職より有利な昭和四四年度の「高等常用作業員の退職に伴う特別措置について」(以下昭和四四年度の特別措置という)により、昭和四四年九月三〇日付をもつて退職した。

(五) 退職後の生活状況

退職後、しばらく無職であつたが、その後道路補修工事、貯木場等で昭和五〇年一二月頃まで働いていた。現在は、無職で妻の給与と本人の年金で生活している。なお休業補償として休業補償金、休業援護金の名目で当初は平均給与額の、七〇パーセント、昭和四五年一月から八〇パーセントの補償がなされている。

右の休業補償等の基礎となる平均給与額は、退職当時は一日約二、四〇〇円であつたが、その後増額され昭和五一年現在で一日約五、四〇〇円となつている。

(六) 病状

(1) 昭和四八、九年頃の症状

(イ) 自覚症状

両腕、肩、手、指のしびれ、頸部、肩、腕、肘、手、指の疼痛、耳鳴り、めまい、発汗亢進、書字障害、胸部絞扼感、性欲減退がある。

(ロ) 他覚症状

両肘関節の変形、筋萎縮、筋腿圧痛がみられる。末梢知覚神経鈍麻、末梢循環機能不良、頸椎の変形がある。

(2)現在の症状

現在、病院へ殆んど毎日通院して治療を受けているが、病状は変らない。特に手が吊つて夜半眼がさめる。日常生活上、はしの上げ下げ、かみそり等をしつかり握ることができない。

(3) まとめ

振動障害そのものによる全身的障害がみられ、治癒は困難であるが、このままでは病状進行により完全な労働能力喪失に至るので、ただちに温熱療法等専門的医療機関において入院治療をすべきである。

振動障害進行段階基準四期に相当する。

2 原告田辺

前記全ての認定事実と〈証拠〉を総合すると以下の事実が認められる(いずれも後記認定に反する部分を除く)。

(一) 経歴

(1) 生年月日、明治四四年七月二八日

(2) 昭和三年六月二日野根営林署具同事業所に伐木手として入所、昭和二九年四月一日常用作業員となり、昭和三二年四月松原事業所で伐木造材手として就労、昭和四四年九月三〇日付をもつて五八歳で退職した。

(二) チエンソー使用実績

昭和三三年六月より二人一組で一日約二時間チエンソーを使用し、昭和四四年六月まで一一年間チエンソーを操作した。

(三) 振動障害の発症と経過

(1) 発症

昭和四〇年頃から両手の薬指と小指がしびれ曲らなくなつた。昭和四二年一月二五日、両手の薬指と小指に蒼白現象が確認される。

(2) 公務災害認定

昭和四四年五月二七日、運動器については、左肘関節及び関節の屈伸痛、左肩関節挙上障害、右肘関節屈伸障害、両側変形性肘関節症(特に右側)があり、神経系については触痛覚とも右手外側及び小指薬指の鈍麻があると診断され、同年九月八日傷病名関節炎、災害発生日同年五月二七日として公務災害認定の通知がなされた。

(四) 退職時の症状と退職理由

安眠できず体が衰弱しており、両手の自由もきかなくなり両腕に痛みがあつたので退職を決意し、昭和四四年度の特別措置により退職した。

(五) 退職後の生活状況

退職後、一年間位縫製工場の工場長として勤務したが、その後は働いておらず、本人と妻の年金で生活している。なお休業補償は前記原告松本と同様の率で補償されている。右の休業補償の基礎となる平均給与額は、退職当時一日約二、〇〇〇円であつたが、その後増額され昭和五一年現在で一日約四、九〇〇円となつている。

(六) 病状

(1) 昭和四八、九年頃の症状

(イ) 自覚症状

蒼白現象(冬期)、腕、指のしびれ、両側肘部の疼痛、発汗亢進、書字障害、胸部絞扼感、性交不能状態がある。

(ロ) 他覚症状

両側手指、肘の屈曲障害、伸展障害、両側手指、腕の筋菱縮がみられる。筋力は低下している。両手の末梢神経(痛覚、触覚、振動覚)鈍麻、末梢循環機能は不良、頸椎の変形がある。

(2) 現在の症状

現在、病院へ殆んど毎日通院して治療を受けているが、病状は変らない。特に肩、肘関節の屈曲が困難であり、両手は水平よりやや上までしか上がらない。日常生活においても手指の自由がきかないのではしを使えず、スプーンで食事している。

(3) まとめ

振動障害による全身的障害がみられ、治癒は困難であり、進行を阻止することを中心にした治療が必要である。振動障害進行段階基準四期に相当する。

3 原告岩崎

前記全ての認定事実と〈証拠〉を総合すると以下の事実が認められる(いずれも後記認定に反する部分を除く)。

(一) 経歴

(1) 生年月日、明治四四年一二月六日

(2) 昭和一七年六月、大正営林署佐川事業所に製炭手として就労、昭和二九年四月常用作業員、昭和三二年四月伐木造材手となり、昭和四五年一二月七日付をもつて五九歳で退職した。

(二) チエンソー使用実績

昭和三四年六月より昭和四五年六月までチエンソーを二人一組作業で一人一日平均二ないし三時間使用していた。

なお、営林署は、原告岩崎が昭和四四年五月三〇日管理医によつて振動機械を使用しないよう診断されたにもかかわらず、昭和四五年六月まで、原告岩崎にチエンソーを使用させていた。

(三) 振動障害の発症と経過

(1) 昭和四〇年頃、疲れると両手の指にしびれ感があつた。昭和四三年六月二八日の春期定期健康診断の際蒼白現象、しびれ感を訴えていたが、更に同年一〇月頃から両手の薬指、小指に蒼白現象が発現した。

(2) 公務災害認定

昭和四四年一二月二三日、レイノー現象が確認され、昭和四五年三月一〇日、傷病名レイノー現象、災害発生日昭和四四年一二月二三日として公務災害認定の通知がなされた。

(四) 退職時の症状と退職理由

睡眠中にも指がひきつり、眠りが浅く、振動障害が一向良くならず、しかも、高血圧、糖尿病、皮膚炎等の疾病もあつたので退職した。

(五) 退職後の生活状況

妻の収入と本人の年金で生活している。休業補償として休業補償金、休業援護金の名目で平均給与額の八〇パーセントの補償がなされている。

右の休業補償の基礎となる平均給与額は退職当時は一日約一、七〇〇円であつたが、その後増額され、昭和五一年現在で一日約四、六〇〇円となつている。

(六) 病状

(1) 昭和四八、九年頃の症状

(イ) 自覚症状

蒼白現象(冬期)、両腕及び両手指の疼痛、耳鳴り、発汗亢進、書字障害、性交不能状態がある。

(ロ) 他覚症状

関節の変形、両側肩関節の挙上制限、指の筋萎縮、筋腱圧痛がみられる。筋力は低下しており、末梢神経の鈍麻、末梢循環機能は不良、両肘関節の骨増殖、頸椎の異常がある。

(2) 現在の症状

手がしびれ、指がひきつつているため、物を握ることができない。現在殆んど毎日病院に通院しているが、退職前と余り変らない。

(3) まとめ

振動障害進行段階基準四期に相当し、入院治療を要する。

4 原告山中

前記全ての認定事実と〈証拠〉を総合すると以下の事実が認められる(いずれも後記認定に反する部分を除く)。

(一) 経歴

(1) 生年月日、明治三九年六月一〇日

(2) 昭和二四年四月小川営林署寺川製品事業所に伐木造材手として採用され、常用作業員として伐木造材に従事、昭和四四年九月三〇日付をもつて六三歳で退職した。

(二) チエンソー使用実績

昭和三五年一〇月から二人一組で一人一日平均四時間位使用、昭和三八年四月より昭和四一年八月頃まで二人一組で一人一日平均三時間位使用、昭和四一年末から昭和四三年六月までチエンソーの使用を殆んど中止(週二ないし三時間は使用)し、更に昭和四三年七月から昭和四四年九月まで一日二時間程度使用していたものである。

(三) 振動障害の発症と経過

(1) 発症

昭和三九年一一月頃より寒冷時、雨天の際、左手小指末梢が蒼白化、昭和四〇年二月頃より小指全体が蒼白化し、しびれ感が存在した。しかし体を暖めると回復するので治療を受けることもなく、そのまま作業に従事した。同年一一月頃から小指、中指が蒼白化し、昭和四一年三月頃から苦痛を伴うようになつた。

(2) 公務災害認定

同年四月に入ると、睡眠できなくなり、病院で診察を受けたところレイノー現象を伴う左手の持続性鈍痛及びしびれ感、ならびに頸椎軟骨症と診断され、昭和四二年三月四日傷病名レイノー現象、災害発生日昭和四一年四月六日として公務災害認定の通知がなされた。

なお、営林署は、原告山中が昭和四一年七月二八日医師によつて振動機械を使用しないよう診断された後、又、公務災害の認定がなされた後も、昭和四四年九月まで、原告山中にチエンソーを使用させていた。

(四) 退職時の症状と退職理由

原告山中は、営林局の許可を得て療養補償の一環として昭和四四年一月から四月一日まで入院治療をしていたが、右手拇指、左手小指のしびれ、痛みがが激しくなり、労働することができなくなつたので昭和四四年度の特別措置に従つて昭和四四年九月三〇日付をもつて退職した。

(五) 退職後の生活状況

退職後、わずかな期間働いたことがあるが、その後無職で本人の年金により生活している。

なお休業補償は、原告松本と同様の率で補償されている。右の休業補償の基礎となる平均給与額は、退職当時一日約一、三〇〇円であつたが、その後増額され、昭和五一年現在で一日約四、九〇〇円となつている。

(六) 病状

(1) 昭和四八、九年頃の症状

(イ) 自覚症状

冬期及び夏期(雨天)の指の蒼白現象、手のしびれ、疼痛、耳鳴り、発汗亢進、書字障害、性欲減退がある。

(ロ) 他覚症状

肘、指の関節の変形、上肢運動障害、筋萎縮、筋・腱圧痛、筋力の低下があり、末梢神経(特に左痛覚、両側振動覚)の鈍麻、末梢循環機能不良がみとめられる。

(2) 現在の症状

退職後も医師のもとで通院治療を受けているが、一向に良くならない。特に指先、手首、腕が痛く、はしが持てなくなつたりして日常生活において困つている。

(3) まとめ

症状が進行しており入院治療が必要である。

老齢化による振動障害の進行をさしひいて、振動障害進行段階基準三期に相当すると考えられる。

5 原告下元

前記全ての認定事実と〈証拠〉を総合すると以下の事実が認められる(いずれも後記認定に反する部分を除く)。

(一) 経歴

(1) 生年月日、大正四年一〇月一八日

(2) 昭和二七年八月松山営林署小田製品事業所の製炭手として採用され、昭和二九年四月常用作業員となり、同年五月伐木造材手、昭和四〇年九月集材手に職種換となり、昭和四一年四月二六日付をもつて五〇歳で退職した。

(二) チエンソー使用実績

昭和三五年五月以降昭和四〇年三月末まで二人一組で一日一人平均二時間チエンソーを使用した。

(三) 振動障害の発症と経過

(1) 発症

昭和三七年一一月頃、原動機付自転車による通勤途上両手指に蒼白現象があり、しびれを感じるようになつた。当初は、示指と中指の未節であつたが、しだいに拇指を除く全指に拡がつた。又右大腿部のしびれ感があつた。

(2) 公務災害認定

昭和四〇年三月末頃、目まいがして失神した。

非常に不安を憶え、当時テレビで放映された名古屋大学医学部の診察を受けることを決意し、同年四月五日から二か月間にわたり、同病院で診察を受けレイノー氏症候群、多発性神経性難聴と診断された。

その後同年八月末日まで自宅で休養し、通院治療を行つた。同年九月一日、集材手に職種換となつた。

昭和四一年六月三〇日、傷病名レイノー現象、災害発生日昭和四〇年四月五日として公務災害認定の通知がされた。

(四) 退職時の症状と退職理由

振動障害に罹患し、体がしびれたりするので仕事が充分にできなくなり、転職を決意した。

(五) 退職後の生活状況

退職後寿司屋を営業していたが、一年でやめ、現在造園業(仕事のない時、日雇い作業)を営んでいる。

なお休業補償は、前記原告松本と同様の率で補償されている。右の休業補償の基礎となる平均給与額は昭和四二年当時で一日約九〇〇円であつたが、その後増額され昭和五一年現在で一日約五、〇〇〇円となつている。

(六) 病状

(1) 昭和四八、九年頃の症状

(イ) 自覚症状

夏期の雨の日に蒼白現象、両側手指のしびれ、頸部より両肩、腕、手指にかけて疼痛、耳鳴り、発汗亢進、書字障害、胸部絞扼感、性欲減退がある。

(ロ) 他覚症状

上肢運動障害、筋萎縮、筋、腱圧痛が存在し、筋力が低下している。末梢神経(触覚、痛感、振動覚)の鈍麻、末梢循環機能不良、頸椎に異常がある。

(2) 現在の症状

現在病院に通院しているが、一向に良くならない。特に、頸、指の各関節が痛み、時々、睡眠中に身体が痙攣することがある。

(3) まとめ

振動障害が全身に及んでいる。入院治療が必要であるが、年齢的にまだ働けるし、生活のため働かざるを得ず、そのことが病状を悪化させている。

振動障害進行段階基準四期に相当する。

6 原告安井

前記全ての認定事実と〈証拠〉を総合すると以下の事実が認められる(いずれも後記認定に反する部分を除く)。

(一) 経歴

(1) 生年月日、大正五年一一月二〇日

(2) 昭和二七年四月、大栃営林署杉熊製品事業所に伐木造材手として採用され、昭和二九年四月常用作業員となり、昭和三九年四月同事業所終了に伴い大栃製品事業所に配置換され、昭和四〇年六月八日肺結核のため高知赤十字病院に入院治療中同年一〇月一日休職となり、休職期間満了により昭和四二年九月三〇日、五〇歳で退職したものである。その後昭和五一年一〇月三〇日直接死因肺性心により死亡した。

(二) チエンソー使用実績

昭和三六年八月、チエンソー導入と同時にチエンソーによる伐木造材作業に二人一組で従事し、昭和四〇年六月肺結核により入院するまでチエンソーを使用していた。

(三) 振動障害の発症と経過

昭和三九年頃、両手首から先に蒼白現象が発現、昭和四〇年六月八日、肺結核治療のため高知赤十字病院に入院したが、入院中の同年八月七日に両手指先に蒼白現象が発現、その後、肺結核の手術経過が良好で昭和四一年一〇月一日退院したが、夏期の五月から八月を除き両手に蒼白現象、しびれ感があつた。

昭和四二年一一月二四日、傷病名レイノー現象、災害発生昭和四一年一月四日として公務災害認定の通知がされた。

(四) 退職時の症状と退職理由

両手腕のしびれ、蒼白現象と肺結核のため、入院と退院を繰り返し、結局昭和四二年九月三〇日休職期間満了により退職となつたものである。

(五) 退職後の生活状況

原告安井は、前記のように入、退院を繰り返していたので妻が生活をささえていた。

なお、休業補償については、前記原告松本と同様の率で支給されていたものである。右休業補償の基礎となる平均給与額は退職時当時一日約一、二〇〇円であつたがその後増額されて昭和四八年当時には一日約二、一〇〇円となつていた。

(六) 病状

(1) 昭和四八年頃の症状

(イ) 自覚症状

蒼白現象(冬期)、両前腕、手、指のしびれ、頸部、肩、肘、手、指の疼痛、耳鳴り、めまい、発汗亢進、書字障害、胸部絞扼感、性欲減退があつた。

(ロ) 他覚症状

両側肘関節の変形、上肢運動障害(挙上、伸展制限)、筋腱圧痛がみられ、筋力は低下している。末梢神経も著明に鈍麻、末梢循環機能も不良、頸椎の変形がある。

(2) 死亡当時の症状

前記のようにレイノー現象と肺結核治療のため入、退院を繰り返していたが良くならなかつた。特に手、腕のしびれを訴えていた。

(3) まとめ

振動障害が全身に及んでおり、専門的治療で進行を阻止することが必要であつた。振動障害進行段階基準四期に相当する。

7 原告岡本

前記全ての認定事実と〈証拠〉を総合すると以下の事実が認められる(いずれも後記認定に反する部分を除く)。

(一) 経歴

(1) 生年月日、明治三六年一一月五日

(2) 昭和二六年一一月魚梁瀬営林署西川事業所に伐木造材手として採用され、常用作業員として勤務していたが、昭和四〇年六月二一日に六一歳で退職した。その後昭和五一年一月一四日直接死因脳血栓により死亡した。

(二) チエンソー使用実績

昭和三六年四月から同年一二月まで及び昭和三七年七月から昭和三八年一〇月までの間、二人一組で一日一人1.5ないし3時間使用した。

(三) 振動障害の発症と経過

昭和三七年頃から年中手のしびれを感じ、同時に指先に蒼白現象が発現した。又めまい、腕がしめつけられるような感じ、不眠、耳鳴りを訴えていた。

昭和四〇年三月一五日、両手指すべてが蒼白となり、強直性が認められた。特に左手指より腕関節にわたつて蒼白となり、血流が停止し、運動障害、知覚異常、鈍麻がみとめられた。

昭和四一年一二月七日、傷病名レイノー現象、災害発生日昭和四〇年三月一五日として公務災害認定の通知がされた。

(四) 退職時の症状と退職理由

振動障害に罹患したため、普通退職より有利な昭三九年度「高齢常用作業員の退職に伴う特別措置」に従つて退職したものである。

(五) 退職後の生活状況

妻の農業の手助けをしていたが、殆んど仕事はしなかつた。なお休業補償については前記原告松本と同様の率で支給されていたものである。右休業補償の基礎となる平均給与額は退職当時一日約八〇〇円であつたがその後増額されて昭和五〇年には一日約四、〇〇〇円となつていた。

(六) 病状

(1) 昭和四八年頃の症状

(イ) 自覚症状

蒼白現象(冬期、夏期)、両側手指のしびれ、両腕、手、指の疼痛、耳鳴り、めまい、書字障害、胸部絞扼感がある。

(ロ) 他覚症状

両側手指関節の変形、上肢の両側伸展制限、筋萎縮、筋・腱圧痛が認められる。年齢要因も加わつているが末梢神経機能が鈍麻している。末梢循環機能も不良である。頸椎形がある。

(2) 死亡当時の症状

振動障害治療のため、通院していたが、特に手、指のしびれ、疼痛を訴えていた。

(3) まとめ

振動障害は器質的に進行しており、回復は望めなかつた。障害の進行を阻止することを中心にした治療が必要であつた。振動障害進行段階基準四期に相当する。

8 原告加納

前記全ての認定事実と〈証拠〉を総合すると以下の事実が認められる(いずれも後記認定に反する部分を除く)。

(一) 経歴

(1) 生年月日、明治四〇年一一月一二日

(2) 大正一五年四月小川営林署安居製品事業所に木挽手として採用、昭和二四年伐木造材手となり昭和二九年四月から常用作業員として勤務していた。昭和四四年四月一日付をもつて六一歳で退職した。

(二) チエンソー使用実績

昭和三五年五月から昭和三六年二月までの間、二人一組でチエンソーを使用、昭和三六年三月から昭和三九年三月までは手鋸使用、昭和三九年四月から昭和四〇年八月及び昭和四一年一月から昭和四四年三月までの間は一人一台の割当てとなり、毎日三時間以上使用した。

(三) 振動障害の発症と経過及び退職事情

(1) 発症

昭和三九年一〇月頃より冬期通勤時に、拇指を除く両手指に蒼白現象が起り、右上肢にしびれ感が生じた。その後も蒼白現象はあらわれ、昭和四一年一二月、昭和四二年一〇月、昭和四三年一一月いずれも営林署の管理者等が蒼白現象を確認した。

又、しびれの範囲が広がり、右肘にもしびれを感ずるようになつた。

(2) 退職事情

以上のような症状が続き、仕事をすることができなくなつたので、その頃昭和四四年度の特別措置と同様の取り扱いをして普通退職よりも退職金を支給するという奨めに従つて昭和四四年四月一日退職したものである。

(3) 公務災害認定

退職後の昭和四五年三月八日、運動器については肘関節疼痛、屈伸障害、神経系については左中指末梢痛覚低下、右中指末節痛覚鈍麻、レイノー現象は両手拇指を除く手指に蒼白現象ありと診断され、同年四月一〇日傷病名レイノー現象、災害発生日昭和四五年三月八日として公務災害認定通知がなされた。

(四) 退職後の生活状況

退職後の昭和四四年から昭和四八年まで営林署の臨時作業員として林道修繕に従事していたが(出役日数合計四二七日)、現在は本人の年金と妻の労働による収入によつて生活している。

休業補償としては、休業補償金、休業援護金が前記原告岩崎と同様の率で支給されている。なお休業補償の基礎となる平均給与は退職当時一日約一、〇〇〇円であつたが、その後増額され昭和五一年現在一日約五、一〇〇円となつている。

(五) 病状

(1) 昭和四八、九年頃の症状

(イ) 自覚症状

蒼白現象(冬期、夏期)、左手指のしびれ、左肘関節、左前腕左手指の疼痛、耳鳴り、めまい、発汗亢進、書字障害、性欲減退がある。

(ロ) 他覚症状

左右肘関節、手指関節の変形、上肢の挙上、伸展障害、筋萎縮、筋・腱圧痛、筋力低下、末梢神経の鈍麻、末梢循環の不良が認められる。

(2) 現在の症状

現在通院しているが、体の状態は良くならない。毎年一一月から翌年四月までの寒い日には蒼白現象があらわれ、指、手、腕の知覚鈍麻、疼痛がある。

(3) まとめ

振動障害の完全な回復は困難であるが、入院して専門的治療をすることにより病状の進行の阻止は期待できる。

振動障害進行段階基準四期に相当する。

9 原告三笠

前記全ての認定事実と〈証拠〉を総合すると以下の事実が認められる(いずれも後記認定に反する部分を除く)。

(一) 経歴

(1) 生年月日、明治三七年一一月一〇日

(2) 昭和二七年六月、大栃営林署別府製品事業所に大工(期間日給労務者)として採用され、昭和二九年常用作業員となり、昭和三二年五月伐木造材手に職種換、昭和三九年四月大栃製品事業所に配置換となり、昭和四三年四月一日付をもつて六三歳で退職したものである。

(二) チエンソー使用実績

昭和三五年五月別府製品事業所へチエンソーが導入されると同時にチエンソーによる伐木造材作業に従事し、昭和四〇年八月までは二人一組で一人一日2ないし3.5時間チエンソーを使用し、同年九月から昭和四三年三月まで主として一人一組で一日1.5ないし4.5時間チエンソーを使用した。

(三) 振動障害の発症と経過及び退職事情

(1) 発症

昭和三七年八月天然林で伐木作業中、突然左手の感覚がなくなり、左手指に蒼白現象があらわれた。その後、冬期になると度々、両手指に蒼白現象があらわれ、しびれを感じ、夏期でも気候で急変する時、又は寝返りを打った時苦痛を感じた。昭和四二年一一月には営林署の管理者が、原告三笠の左手小指、薬指、中指の蒼白現象を確認した。

(2) 退職事情

以上のような症状が続き、これ以上仕事をすると身体の調子が悪くなる一方ではないかという不安感が生じたことと管理者が退職、配置換を奨めてきたことについて賃金が低下するのではないかという不安を抱いたことにより昭和四三年四月一日付をもって退職した。

(3) 公務災害認定

昭和四三年五月二三日、レイノー現象、変形性脊椎症、腰椎辷症、右変形性肘関節症が医師の診断によつて確認され、このうちレイノー現象がチエンソー使用による傷病と認められ、昭和四三年七月二六日傷病名レイノー現象、災害発生日同年五月二三日として公務災害認定通知がなされた。

(四) 退職後の生活

退職後昭和四八年四月まで土木工事の現場監督として働いていたが、現在は無職である。本人と妻の年金で生活している。休業補償については、休業補償金、休業援護金が前記原告松本と同様の率で支給されている。右休業補償の基礎となる平均給与額は退職当時一日約一、〇〇〇円であつたがその後増額されて昭和五一年現在一日約五、一〇〇円となつている。

(五) 病状

(1) 昭和四八、九年の症状

(イ) 自覚症状

蒼白現象(冬期)、両側肩、腕、手、指のしびれ、疼痛、耳鳴り、めまい、発汗亢進、書字障害、胸部絞扼感がある。

(ロ) 他覚症状

両側肘、手、指関節の変形、上肢の挙上伸展障害、筋萎縮、筋、腱圧痛、筋力低下、末梢神経鈍麻、末梢循環機能不良が認められる。

(2) 現在の症状

現在通院治療を受けているが、良くならない。

特に体の各部が痛む。

(3) まとめ

苦痛を和らげるための治療はできるが、回復は期待できない。振動障害進行段階基準四期に相当する。

10 原告下村

前記全ての認定事実と〈証拠〉を総合すると以下の事実が認められる(いずれも後記認定に反する部分を除く)。

(一) 経歴

(1) 生年月日、昭和六年三月二六日

(2) 昭和二三年九月野根営林署尾河製品事業所に伐木手として採用されたが、昭和二六年四月退職した。昭和二七年四月再び前記事業所に伐木手として採用、昭和二九年四月常用作業員となり、昭和四五年四月三〇日付をもつて三九歳で退職した。

(二) チエンソー使用実績

昭和三六年五月尾河製品事業所にチエンソー導入と同時にチエンソーによる伐木造材作業に従事し、昭和四五年三月まで一日平均3.5時間チエンソーを使用した。

なお、チエンソー使用の形態は、導入当初は二人一組作業であつたが、昭和四〇年七月前記事業所に全幹集材作業導入と同時に山元での伐倒は一人制、盤台での玉切りは交替制となつた。

(三) 振動障害の発症と経過

昭和三八年頃両腕にしびれ感が生じた。昭和四一年三月頃より寒冷時に左小指、示指、中指に蒼白現象があらわれ、その後も時々発現した。

昭和四二年四月、営林署の管理者が左小指、薬指に蒼白現象があらわれたことを確認した。

その後も蒼白現象が発現していたが、昭和四三年一二月一七日、管理医によつて左手中指の蒼白現象が確認され、昭和四四年一月一四日、傷病名レイノー現象(手指)、災害発生日昭和四三年一二月一七日として公務災害認定の通知がされた。

(四) 退職時の症状と退職事情

前記のような症状が良くならず、転職をはかつた。

(五) 退職後の生活状況

退職後昭和四六年二月頃までタクシー運転手として働き、昭和四七年五月より鉄工所の工員となり現在に至つている。

休業補償については休業補償金、休業援護金が前記原告岩崎と同様の率で支給されている。

右休業補償金の基礎となる平均給与額は退職当時一日約一、二〇〇円であつたが、その後増額されて昭和五一年現在一日約五、三〇〇円となつている。

(六) 病状

(1) 昭和四八、九年の症状

(イ) 自覚症状

手指のしびれ(冬期)、両肘関節疼痛、発汗亢進、書字障害がある。

(ロ) 他覚症状

筋、腱圧痛、筋力低下、末梢神経鈍麻(特に振動覚)、末梢神経機能不良がみられる。

(2) 現在の症状

現在鉄工所の工員をしながら、振動障害治療のため、通院治療をしている。特に腕、指が痛い。

(3) まとめ

入院して完全な治療を加える必要があり、又、そうすることによつて相当程度治療効果が期待できる。

振動障害進行段階基準二ないし三期に相当する。

11 原告浜崎

前記全ての認定事実と〈証拠〉を総合すると以下の事実が認められる(いずれも後記認定に反する部分を除く)。

(一) 経歴

(1) 生年月日、大正六年三月二〇日

(2) 昭和二五年四月、中村営林署小成川事業所に造材手として採用され、昭和二九年四月常用作業員となつたが、昭和四二年七月三一日をもつて五〇歳で退職した。

(二) チエンソー使用実績

昭和三五年六月黒尊製品事業所にチエンソーが導入されると同時にチエンソーによる伐木造材作業に従事し、昭和四二年六月までの間チエンソーを使用した。なお右期間におけるチエンソー使用は、昭和三五年導入当時の六か月間及び昭和四〇年二月以降は二人一組で交替使用をしていたが、その他の期間は、チエンソーの使用できない補助者との組合せであるため殆ど単独使用となつている。

(三) 振動障害の発症と経過

(1) 発症

昭和三八年一一月頃、自動二輪車で通勤して下車した際、左手示指が蒼白となつた。その後蒼白現象が寒冷時に時々発現した。昭和四〇年一月頃、左示指、中指、薬指と右中指、薬指に蒼白現象があらわれ、同年三月一九日には冷覚、知覚、痛覚鈍麻が認められた。同年五月一五日の局の精密検査の際には、自然の状態で両手指(拇指を除く)に蒼白現象が生じ、「じやんじやん」する感じを訴えた。

(2) 公務災害認定

昭和四〇年七月八日、中村営林署から公務災害認定の上申をしたところ、昭和四二年五月二四日、傷病名レイノー現象、災害発生日昭和四〇年三月一九日として公務災害認定の通知がされた。

(四) 退職時の症状と退職理由

前記の症状が続き、又手首、肘にもしびれ、痛みが生じたので、これ以上チエンソーを使用すると体が駄目になると考えて昭和四七年七月三一日退職した。

(五) 退職後の生活状況

退職後魚屋を本人と妻の二人で営業している。休業補償については、休業補償金、休業援護金が前記原告松本と同様の率で支給されている。

右休業補償金の基礎となる平均給与は、昭和五一年現在で一日約五、一〇〇円である。

(六) 病状

(1) 昭和四八ないし五〇年頃の症状

(イ) 自覚症状

両肘、手首のしびれ、両肘関節疼痛、耳鳴り、性欲減退がある。

(ロ) 他覚症状

左上肢の運動障害、握力低下、末梢神経鈍麻、末梢循環機能不良、両側肘の化骨変形、骨増殖変形が認められる。

(2) 現在の症状

前記の症状が続いている。特に肘のしびれ、痛みで夜眼がさめる。

(3) まとめ

専門的な入院治療で回復が期待できる。振動障害進行段階基準二ないし三期に相当する。

12 原告大崎

前記全ての認定事実と〈証拠〉を総合すると以下の事実が認められる(いずれも後記認定に反する部分を除く)。

(一) 経歴

(1) 生年月日、大正九年一月一二日

(2) 昭和二八年八月川崎営林署四手担当区事業所に造林手として採用され、昭和三〇年一〇月常用作業員となり、昭和四六年一二月一〇日をもつて五一歳で退職した。

(二) ブツシユクリーナー使用実績

昭和三九年六月藤の川担当区事業所においてブツシユクリーナーによる作業を開始し、昭和四四年九月までの間、ブツシユクリーナーによる下刈、除伐、地ごしらえ作業に従事した(昭和四二、四三年度は使用しなかつた)。なお、右ブツシユクリーナーの一日平均使用時間は、昭和三九年が三時間、昭和四〇年が3.5時間、昭和四一年が四時間、四四年が4.5時間である。

(三) 振動障害の発症と経過

昭和四一年頃、手指に蒼白現象があらわれた。その後昭和四四年三月頃から、再び手指に蒼白現象があらわれ、同年一〇月には管理者が確認した。昭和四四年一一月一四日管理医により左中指の蒼白現象が確認され、昭和四五年一月九日傷病名レイノー現象、災害発生日昭和四四年一一月一四日として公務災害認定の通知がなされた。

(四) 退職時の症状と退職理由

手首がしびれ作業が困難となつたので転職を考えたものである。

(五) 退職後の生活状況

退職後、雑貨店を経営している。休業補償については休業補償金、休業援護金を前記原告岩崎と同様の率で支給されている。右休業補償金の基礎となる平均給与額は退職当時は一日約一、五〇〇円であつたが、その後増額されて昭和五一年現在一日約四、六〇〇円となつた。

(六) 病状

(1) 昭和四八、九年の症状

(イ) 自覚症状

左肩、両肘関節の疼痛、発汗亢進がある。

(ロ) 他覚症状

右上肢の運動障害、握力低下、末梢神経鈍麻、末梢循環機能不良が認められる。

(2) 現在の症状

現在病院で通院治療を受けているが、在職中より幾分好転したようであるがあまり変らない。

(3) まとめ

通院治療が必要である。振動障害進行段階基準一期に相当する。

13 むすび

(一) 慰藉料

以上の事実を総合すると、原告らの被つた前記の肉体的精神的苦痛に対する慰藉料としては、原告松本、同田辺、同岩崎、同下元、同安井、同岡本、同加納、同三笠に対しては各一、〇〇〇万円、原告山中、同下村、同浜崎に対しては各七〇〇万円、原告大崎に対しては五〇〇万円が相当であると認める。

(二) 弁護士費用

原告らが本訴を提起しこれを遂行するうえで弁護士に依頼したことは必要やむを得ない措置であると考えられ、本件事案の内容、認容額その他諸般の事情を考慮すると、本件の債務不履行と相当因果関係にたつ弁護士費用は本件認容額の一割が相当であると認める。

第六結論

以上述べてきたことによれば、原告らの本訴請求は、被告に対し、原告松本、例田辺、同岩崎、同下元、同安井、同岡本、同加納、同三笠が各一、一〇〇万円とうち一、〇〇〇万円に対する本件債務不履行による損害の発生の後であることが認明らかな昭和四六年一二月一一日から完済に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を、原告山中、同下村、同浜崎の各七七〇万円とうち七〇〇万円に対する前期日から完済に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を、原告大崎が五五〇万円とうち五〇〇万円に対する前期日から完済に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから、この限度で認容し、その余は失当であるからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条但書を、仮執行宣言につき同法一九六条を適用し、仮執行免脱の宣言は相当でないからこれを付さないこととして、主文のとおり判決する。

(田村承三 三谷忠利 豊永多門)

〈別紙1〉

原告らの経歴目録

原告番号

原告氏名

生年月日

(退職時

の年齢)

入署

時期

退職

時期

国家公務員

災害補償法

八条による

通知日

災害発生日

とされて

いる日

公務災害

の認定

傷病名

退職

所属

営林署

チエンソー、

ブツシユ

クリーナー

を操作した

期間

1

鈴木勇

明治四四年

一二月一日

(五七)

昭和一二年

六月二〇日

昭和四四年

九月三〇日

昭和四四年

九月八日

昭和四四年

五月三〇日

レイノー

現象

大正

昭和三四年

六月から

四四年

六月まで

2

田辺重実

同四四年

七月二八日

(五八)

同三年

六月二日

同四四年

九月三〇日

同四四年

五月八日

同四四年

五月二七日

関節炎

同三三年

六月から

四四年

六月まで

3

岩崎松吉

同四四年

一二月六日

(五九)

同一七年

六月一日

同四五年

一二月七日

同四五年

三月一〇日

同四四年

一二月二三日

レイノー

現象

同三四年

六月から

四四年

一二月まで

4

山中鹿之助

同三九年

六月一〇日

(六三)

同二四年

四月

同四四年

九月三〇日

同四二年

三月四日

同四一年

四月六日

高知

同三五年

一〇月から

四四年

九月まで

5

下元一作

大正四年

一〇月一八日

(五〇)

同二七年

八月二日

同四一年

四月二六日

同四一年

六月三〇日

同四〇年

四月五日

松山

同三四年

五月から

四〇年

三月まで

6

安井計佐治

同五年

一一月二〇日

(五〇)

同一四年

一月二一日

同四二年

九月三〇日

同四二年

一一月二四日

同四一年

一月四日

大栃

同三六年

八月から

四〇年

六月まで

7

岡本吉五郎

明治三六年

一一月五日

(六一)

同二六年

一一月一日

同四〇年

六月二一日

同四一年

一二月七日

同四〇年

三月一五日

魚梁瀬

同三六年

四月から

三六年

一二月まで

及び

三七年

七月から

三八年

一〇月まで

8

加納勲

同四〇年

一一月一二日

(六一)

大正一五年

四月一日

同四四年

四月一日

同四五年

四月一〇日

同四五年

三月八日

高知

同三五年から

三六年まで

及び

三九年

四月から

四四年

三月まで

9

三笠寅蔵

明治三七年

一一月一〇日

(六三)

昭和二七年

六月一日

昭和四三年

四月一日

昭和四三年

七月二六日

昭和四三年

五月二三日

レイノー

現象

大栃

同三五年

五月から

四三年

三月まで

10

下村博

昭和六年

三月二六日

(三九)

同 二七年

四月二一日

同四五年

四月三〇日

同四四年

一月一四日

同四三年

一二月一七日

レイノー

現象

(手指)

野根

同三六年

五月一五日から

四四年

三月二八日まで

11

浜崎恒見

大正六年

三月二〇日

(五〇)

同三五年

四月一日

同四二年

七月三一日

同四二年

五月二四日

同四〇年

三月一九日

レイノー

現象

中村

同三五年

六月から

四〇年

五月まで

12

大崎憲太郎

同九年

一月一二日

(五一)

同二八年

八月二一日

同四六年

一二月一〇日

同四五年

一月九日

同四四年

一一月一四日

川崎

同三九年

六月から

四四年

七月まで

(四二年から

四三年を除く)

〈別紙2〉

原告らの症状表

原告番号

氏名

発症時期と自覚症状

現在までの経過及び肉体的精神的障害等

1

松本勇

昭和37年冬期より現在まで白ろう症状あり、

夏期も昭和39年より時々あり、

両側肩、腕、手指にしびれ、疼痛、耳鳴、めまいあり、

寒冷時、性慾減退著明

両側肘関節の変形、上肢伸展障害、両側背側筋萎縮、両肩部前腕圧痛あり、右筋力低下、両側握力低下、疲労が著しい。末梢循環は極度に低下し、手指知覚障害は著明であると判定される。

障害は進行し、完全な治ゆは期待できない。

現在週一回の通院治療中で、日常生活も不便

2

田辺重実

昭和35年冬期より現在まで白ろう症状あり、

夏期も現在も症状あり

両前腕、手、指にしびれ両側肘部に疼痛あり、

昭和42年3月ころより性慾減退

両側肘関節の変形、両側上肢伸展障害、右側母指球筋、小指球筋、背側骨間筋、右側指伸筋、左側腓腹筋萎縮、両側前腕圧痛あり、筋力は著しく低下、末梢循環は不全と認められる。

障害は全身に及んでおり、日常生活の不便、難聴、物忘れが多く、歩行も困難、現在週一回通院治療中であるが、退職後一層症状は進行した。

3

岩崎松吉

昭和42年冬期より現在まで白ろう症状あり、

夏期も昭和42年より現在も時々発症

右腕、両手指にしびれ、両側、肩腕、肘、手、指に疼痛

耳鳴、めまい時々あり、性慾減退あり

両側肘関節の変形、両側肩部、前腕圧痛あり、筋力は著明に低下、両側共手、指の知覚鈍麻す、障害は全身的に進行している。

昭和44年6月から同年12月まで高知市民病院入院、現在も週一回の通院治療中である。

冬期、白ろう症状となるので、外出せず保温につとめているが、夜間眠れない時もある。

4

山中鹿之助

昭和39年冬期より左第二から第四指、右第二指の白ろう症状あり、

昭和40年以後冬期は毎日夏は40年以後時々発症する。

しびれ、疼痛あり

夜間耳鳴あり

左肘関節、左第五、右第三、五指関節の変形、

左上腕、二頭筋萎縮、

左手痛、触覚鈍麻強く、振動覚両手鈍麻、末梢神経鈍麻、末梢循環不良、

現在も手足のしびれ冷える、電気アンマ器で自家療法中である。

5

下元一作

昭和37年冬期より現在まで白ろう症状あり、

夏期も昭和38年より現在まであり、

両側手、指にしびれ、

頸部、両肩、腕、手、指に疼痛あり、

性慾減退

上肢運動障害として挙上制限、両側肘関節から末関節まで圧痛あり、

筋力低下著明、手指、手関節の知覚神経鈍麻が著しい、

経過が長く、障害は全身に及んでいる。昭和39年5月3日名古屋大学へ入院、当時はとくに疼痛ひどく、足のしびれ、関節のいたみ、下半身が冷え、下痢した。退職後現在まで月三回通院治療中

6

安井計佐治

昭和42年冬期より現在まで白ろう症状あり、

両前腕、手、指にしびれ、

頸部、両側肩腕、肘、手、

指に疼痛あり

耳鳴、めまいあり、

昭和42年より性慾減退

両側肘関節の変形、上肢運動障害として挙上、伸展障害あり、両側肩部、前腕圧痛あり、

筋力は著明に低下、

障害は全身に及んでいる。

とくに寒冷時、天候の悪いとき、体の筋が痛むため、生活が不便である。

週一回通院治療中

7

岡本吉五郎

昭和39年冬期より現在まで白ろう症状あり、

夏期も時にあり、

両側手、指にしびれ、

両腕手、指に疼痛あり、

耳鳴めまいあり

両側手指関節変形、上肢運動障害として両側、伸展制限あり、両側、背側骨間筋萎縮、両側肩部、前腕部圧痛あり、末梢循環障害が強い。

障害は全身に及んでいる。

体が冷えると、しびれがひどく、夜眠れなくなる。

8

加納勲

昭和37年冬期より現在まで白ろう症状あり、

夏期も昭和47年より現在まであり、

左手指にしびれ、左肘関節、左前腕、左手指に疼痛あり、

耳鳴あり、

性慾減退あり。

左右肘関節変形、上肢運動障害として挙上、伸展制限あり、両側三角筋萎縮、両側前腕圧痛、筋力低下する。

手指知覚著明に鈍麻する。

週一回通院治療中

障害は全身に及んでいる。

9

三笠寅蔵

昭和38年冬期より現在まで白ろう症状あり、

両側肩、腕、手、指にしびれ、両側肩、手、指に疼痛あり、耳鳴持続、めまい時にあり、

両側肘、手指関節変形、上肢運動障害として挙上、伸展制限あり、上腕二頭筋萎縮、筋力低下あり、手指知覚鈍麻著明、末梢循環障害著明、

障害は全身に及んでいる。

現在も月二~三回通院治療中

10

下村博

昭和42年冬期より白ろう症状あり、現在は軽快している。

冬期手、指にしびれあり

筋力やゝ低下し筋疲労が強い。

末梢知覚やや鈍麻している。

寒冷時に、左の第三、四、五指が白くなり、しびれる。

現在も注射、投薬の治療をうけている。

11

浜崎恒見

昭和38年冬期から現在まで白ろう症状あり、

夏期は昭和39年にあり、

現在は軽快

両側前腕、手、指にしびれ、両側肘部に疼痛あり耳鳴あり

左肘関節変形、上肢運動障害として伸展障害あり、両肩部、両前腕圧痛あり、筋力低下、筋疲労著明、手、指知覚神経鈍麻、末梢循環不全

経過は長く、筋萎縮あつて、筋力も疲労が強い状態である。

夜、手、肘のしびれがひどく眠れない時もある。

12

大崎憲太郎

昭和40~46年冬期、夏期とも白ろう現象があつたが現在では軽快した。

左手、指、しびれ、左前腕疼痛あり、

筋力低下、筋疲労著明

左第四指、知覚鈍麻著明、他は軽く鈍麻している。

末梢循環やや不良

重量物が持てず、気候の変り目になると肘が痛み、現在も、注射・投薬の治療をうけている。

〈別紙3〉昭和五二年三月一五日付原告準備書面《省略》

〈別紙4〉昭和五二年三月一五日付準備書面(五)《省略》

〈別紙5〉書証目録(一)(二)《省略》

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